2022.05.13

食事・栄養

トランス脂肪酸って危険なの?|健康を害する理由と控えるべき食品

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田中 康規

麻酔科医/ヘルスコーチ

トランス脂肪酸」が体に悪いものということはなんとなく知っているけど、それがどんな食品に含まれるのか、摂取することでどんな健康リスクがあるのかを理解している方は少ないでしょう。

また、日本と海外のトランス脂肪酸に対する意識の違いなども知っておくと良いと思います。そこで今回は、トランス脂肪酸の基本的な知識から、健康リスク、避けるべき食品リストも解説いたします。

日常生活の中でどう気をつけたら良いかもご説明いたしますので、ぜひ最後までチェックしてください。

トランス脂肪酸って何?

トランス脂肪酸について、まずは基本的なことを解説いたします。

まず「脂肪酸」について知ろう

油脂は、含まれる脂肪酸の違いで大きく2つに分類されます。1つ目は「飽和脂肪酸」、2つ目は「不飽和脂肪酸」です。

実はすべての油脂にこの両方の脂肪酸が含まれています。例えば、「アマニ油はオメガ3脂肪酸」のように、より多く含まれる脂肪酸によって油脂の種類が分類されています。

この2つの脂肪酸の違いは何かというと、「融点」、つまり液体になる温度の違いです。飽和脂肪酸は融点が高く、常温では固体です。熱さないと溶けないバターやラードは、飽和脂肪酸をより多く含んでいます。

一方、不飽和脂肪酸は融点が低いため、常温では液体です。サラダ油やオリーブオイルなどの、植物性の油のほとんどは、不飽和脂肪酸をより多く含んでいます。

ところで「油脂」はアブラを意味していますが、個体である飽和脂肪酸は「」、液体である不飽和脂肪酸は「」と表記されることが多いようです。 

これらは、動物の肉や脂肪、植物に含まれる「天然の脂肪酸」です。 

トランス脂肪酸とは?

トランス脂肪酸には、「天然の脂肪酸」と「人工的な脂肪酸」があることをご存知ですか?

天然の脂肪酸

牛や羊に由来する乳製品や肉には、少量のトランス脂肪酸が含まれます。これは天然のトランス脂肪酸です。反芻動物の胃の中にいる微生物の働きによって作られ、健康への影響は少ないとされています。

人工的な脂肪酸

多くの加工食品に含まれるのが、人工的なトランス脂肪酸です。これは、菜種油やとうもろこし油などの植物油に、化学的に「水素」を添加して作られます。健康に対して、多くの悪い影響があるとされています。

なぜ、そんな細工をするかというと、植物油は劣化しやすいからです。そこで考えられたのが、水素を添加することで植物油を酸化しにくい見せかけの不飽和脂肪酸に変化させることでした。

トランス脂肪酸の起源

1902年、ドイツのウィルヘルム・ノーマン博士は、常温で液体の植物油を水素添加し、固形の油を人工的に作り出す方法を発見しました。1911年には、この技術を応用して開発されたショートニングが市場に初めて登場しました。

1960年代には、バターなどに多く含まれる飽和脂肪酸の害が報告されました。その代わりとして、トランス脂肪酸を多く含むマーガリンやショートニングが健康的だともてはやされ、市場で大量に消費されるようになったのです。生産者にとっても、生産コストが安いうえに日持ちするというメリットがあるため、クッキーやドーナツなどに多用されてきました。

しかし、1990年代に入ると続々とトランス脂肪酸の健康に対する悪影響が指摘されるようになります。1997年には、トランス脂肪酸の2%を不飽和脂肪酸に置き換えるだけで心疾患のリスクが53%も減少するという報告が出ました。2003年には、ナビスコ社のオレオに含まれるトランス脂肪酸は子供が食べると危険だと訴訟が起こりました。同年、マクドナルド社に対しても同じような訴訟が起こったのです。

日本と海外では、規制が違うの?

その流れを受け、アメリカでは2006年にトランス脂肪酸の表示を義務化し、2013年にはFDA(アメリカ食品医薬品局)がトランス脂肪酸の使用規制を発表、2018年6月以降の原則使用禁止を発表しました。

アメリカだけではなく、デンマークやスイス、オーストリアなど各国が規制や流通の禁止を行っており、アジアでも中国、韓国、台湾、香港が表示を義務付けています。そんな中、日本はWHO基準の1日摂取エネルギー量1%未満を満たしているとし、規制も表示義務もありません。

日本の規制がゆるい理由

WHOは、トランス脂肪酸の摂取量を、「1日に摂取する総カロリーの1%未満」に制限するように提言しています。

日本は和食文化によることもあり、トランス脂肪酸の平均摂取量が「0.6%程度」と言われているのですが、ここにカラクリがありそうです。この数値は、生まれたばかりの赤ちゃんから高齢の方までの平均値から算出されたもの、ということです。

ですが、ある民間の調査では、30代から40代の人だけのデータを抽出するとトランス脂肪酸の摂取量が「1%をオーバーしている」という報告もあります。他にも、食品100gあたりのトランス脂肪酸の含有量が0.3ミリ未満なら「トランス脂肪酸フリー」と表示できてしまうというメーカーに有利なルールが制定されているのが日本の現状です。

このことから、世の中に出回っている食品を見極めなければ、気づかないうちにトランス脂肪酸を摂取してしまっていると言えるでしょう。

 

トランス脂肪酸を摂ることによる健康リスク

トランス脂肪酸を摂取し続けることによる健康リスクには、どんなものがあるのでしょうか。

心筋梗塞・脳梗塞

トランス脂肪酸の害の中でも、とくに指摘されるのが「動脈硬化」です。動脈硬化は、主に脂質異常症や糖尿病などを原因として発症します。血中の脂肪濃度が高くなると血液がドロドロになり、脂肪の塊ができたり脂肪が血管壁に堆積したりして血管が狭くなります。

これが進むと血管が完全に詰まってしまい、血液の流れが止まってしまうのです。これが心臓の血管で起こると心筋梗塞、脳の血管で起こると脳梗塞となります。

健康に良い脂質であれば、様々な形で生体に有効活用されます。一方、トランス脂肪酸は、有効活用されないばかりか、代謝に相当の時間を要するため悪い脂質の代表と言えます。こうした不自然な脂質は、当然、脂質異常症の原因となります。

このように、脂質異常症や動脈硬化の原因となるトランス脂肪酸の摂取を控えることで、重篤な心筋梗塞や脳梗塞を予防できる可能性はいっそう高まります。

ガンを野放しにする可能性が高くなる

全ての細胞は、細胞膜に「糖鎖」というアンテナのようなものが付いており、細胞間の情報伝達を行っています。細胞に遺伝子変異が起こると、このアンテナから指令が出て、まず遺伝子を修復する酵素が働きます。

それでも対処しきれなかった場合は、免疫系の細胞が働いて遺伝子変異の起こった細胞をやっつけます。この二段構えで私たちの体はガンから組織や臓器を守っているのです。細胞膜は脂肪酸やコレステロールからできているため、良い脂質で細胞がコーティングされていないと糖鎖がしっかり機能しません。

トランス脂肪酸が細胞膜に入り込めば、細胞間の情報伝達は不完全になり、これが遺伝子変異の起こった細胞を見逃し、ひいてはガンを野放しにする原因になってしまうのです。

糖尿病を引き起こす原因になる

糖質を摂ると、膵臓から血糖値(血液中に含まれるブドウ糖)を下げる「インスリン」と呼ばれるホルモンが分泌されます。インスリンの働きが弱まると、徐々に血糖値が高い状態が続くようになります。糖尿病は、このような機序で慢性的に血糖値が高くなる病気です。糖尿病が長期におよぶと、全身の血管に障害が引き起こされるでしょう。

本来溜まるはずでないところに脂肪が蓄積し、これらの組織の正常な機能が阻害されることを「脂肪毒性」と呼びます。脂肪が臓器に蓄積すると、筋肉や肝臓ではブドウ糖の取り込みが低下し、膵臓ではインスリンの分泌障害を招きます。その結果、高血糖インスリン抵抗性が引き起こされます。

肥満やアレルギー性疾患についても関連が認められていますが、厚生労働省によると、トランス脂肪酸と糖尿病、ガン、胆石、脳卒中、認知症などについての関連は分かっていないとされています。

【コレだけは避けて!】危険な糖質|生活習慣病や肥満との関係を解説

 

トランス脂肪酸が含まれる食品リスト

日本にはトランス脂肪酸の表示義務がないため、不安に感じる方も多いでしょう。以下の食品には、トランス脂肪酸が比較的多く含まれているため特に注意するようにしましょう。

  • ショートニング
  • マーガリン
  • ファットスプレッド
  • パイ
  • クリーム
  • バター(グラスフェッドでない)
  • クッキー
  • 植物性油脂
  • コーン系スナック菓子
  • マヨネーズ
  • チョコレート
  • 中華麺
  • 菓子パン、食パン
  • ドーナツ
  • 油揚げ、がんもどき

 

どうやって気をつけたら良いの?

トランス脂肪酸を極力避けるためにも、どのように気をつけるべきかを理解しましょう。

「低温圧搾製法」の植物油を選ぶ

日本では、トランス脂肪酸の表示義務がないため、食品表示を見る際に「加工油」「植物性油脂」「食用調合油」などの表示がないか気を付ける必要があります。

こうした植物油の大半は熱に弱いため、油の抽出過程で生じた熱によって、既に劣化している可能性が高いのです。

一方、コールドプレス製法で製造された油は、低温でじっくり抽出するため危険性が低いと言えます。購入の際は「低温圧搾製法」と表示されているものを選ぶと良いでしょう。

手作りのおやつを選ぶ

パンやお菓子、チョコレートを食べたくなった際は、市販のものではなく素材にこだわって手作りされた体に優しいものを求めるようにしてください。ココナッツオイルを使ったお菓子や、オートミールで作られたクッキーなど、ヴィーガン仕様に作られているお菓子も増えてきていますので、オンラインショップなどで探してみましょう。

ファストフードや揚げ物を避ける

マヨネーズや大豆製品などにもトランス脂肪酸のリスクはあるため、加工食品は避け、自然な材料で作られた調味料や食品を探してください。ファストフードはもちろん、スーパーのお惣菜(とくに揚げ物)や屋台の食品もトランス脂肪酸の危険性は高いので、それらを利用する頻度は控えるようにした方が良いと言えます。

 

まとめ

トランス脂肪酸について、基本的なことはご理解いただけたかと思います。どんな油・食品を控えるべきか、トランス脂肪酸を摂取することによる健康リスクの大きさを知ることで、今後の食生活をどうすべきか考えるきっかけになったのではないでしょうか。

ご紹介した食品や、気をつけるべきことを意識して、自分や家族のためにトランス脂肪酸を避けるという選択をしてみましょう。

参照:
丸山武紀.トランス脂肪酸と健康.オレオサイエンス.13巻.6号.2013,p 11-18

 

この記事の監修者

田中 康規 麻酔科医/ヘルスコーチ

 
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