尿を作る臓器として知られている腎臓。みなさんは、腎臓の働きや特徴、健康な腎臓を保つために良いとされている食べ物をご存知でしょうか。
今回は、健康な腎臓を保つための食べ物についての内容を、予防医学という視点でお届けします。普段の食事で意識して摂りたいものや控えたいものを知り、一緒に健康な腎臓を維持していきましょう。
腎臓のしくみ
まずは腎臓のしくみについて簡単に説明していきます。
腎臓の働き
腎臓は、腰の上の背中側に左右ひとつずつ存在し、糸球体と尿細管から構成されます。1つの腎臓の中には約100万個のネフロンという構造が存在し、尿を作る以外にも私達の生命に関わる以下のような働きをしています。
【腎臓の働き】
・水と電解質のバランスを調整する
・老廃物の濾過と排泄をする
・血圧の調整をする
・ホルモンを分泌する
腎臓の特徴
腎臓の機能は、一度低下してしまうと回復が難しいという特徴があります。腎炎などの病気で、血液を濾過する糸球体が損傷すると、腎臓の機能が低下し、老廃物の排泄が困難になります。腎機能が著しく低下し、体にとって不必要な老廃物が排泄できないと命に関わる状態に陥ることがあります。このような状況を管理するための治療方法として、人工透析があります。これは、機械を使用して腎臓の機能を補うものです。
生きている限り、水分のバランスをとることや老廃物を排泄すること、老廃物を排泄することなど腎臓が担っている働きは不可欠です。そのため、人工透析は標準で週に3回、一回に4時間くらいの頻度と時間が必要になります。
腎臓病の原因
日本の慢性腎臓病罹患率は、成人全体で8人に1人と言われています。また、この割合は高齢になると高くなります。そして、この慢性腎臓病は腎臓の血管障害が大きく関係していると考えられています。つまり、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病や加齢などがリスク因子になると言われています。生活習慣病は、腎臓に限らず様々な疾患の原因となるため、毎日の生活習慣により一次予防をすることが何より大切です。
腎臓に良い食事
ここからは、健康な腎臓を維持するための食習慣について解説します。上記のように、腎機能の低下には生活習慣病が大きく関係しています。ここでは、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を予防する食事としてアメリカで考案された「DASH食」をベースに説明します。
3つのミネラルと食物繊維を積極的に摂る
以下のミネラルと食物繊維は、健康な腎臓を保つために重要です。
カリウム
カリウムは、細胞内液の浸透圧の維持、心臓などの筋肉の収縮や神経の情報伝達、体液のpH維持に関与します。また、腎臓でのナトリウムの再吸収を抑え、余分なナトリウムを排泄し、血圧を下げる働きをしています。そのため、高血圧によって起こる動脈硬化のリスクを減少させる効果があります。伝統的に日本人の食生活は魚や野菜、海藻などカリウムを多く含む食品を多用していましたが、近年加工食品の摂取が増え、これらの食品からのカリウム摂取が減少している可能性があります。
【含まれる食品】
昆布、わかめ、ひじきなどの海藻類、山菜類、切り干し大根、ほうれん草など水に溶けやすい性質があるため、生のままや煮汁やスープごと食べられる料理がおすすめ
カルシウム
カルシウムは骨や歯の形成に必要であり、体内で最も存在します。このミネラルは骨の新陳代謝に必要で、骨形成と骨吸収を通じて、骨の新陳代謝を維持します。その他、出血を防ぐ、心臓を規則的に鼓動させる、精神の安定、副甲状腺ホルモンの分泌を調整などの重要な働きを担っています。カルシウムもカリウム同様に日本人に不足しやすい栄養素のひとつです。
【含まれる食品】
小魚、干しえびなどの魚介類、チーズ、大根、かぶ、水菜、小松菜など
食物繊維
食物繊維は、小腸で消化・吸収されずに大腸まで達し、便の量を増やし腸内を掃除します。また、腸内細菌のエサとなり、腸内環境を整えます。さらに、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度の低下などの働きもあります。食生活の欧米化に伴い、日本人の摂取量は減少傾向にあるとされています。
【含まれる食品】
海藻類、きのこ類、豆類など
マグネシウム
マグネシウムは、カルシウムやリンと共に骨や歯を形成する栄養素。体内では、300種類以上の酵素の働きを助ける補酵素として働いています。さらに、筋肉の収縮、神経系の機能の維持、心機能の維持にも不可欠です。
【含まれる食品】
種実類、海藻類、豆類・大豆加工食品、海水を煮詰めて作った塩、にがりなど
脂質の少ないタンパク質を摂る
タンパク質は私達の体の筋肉や臓器など体を構成する要素や、酵素やホルモンを作るために必要不可欠です。タンパク質は肉類、魚介類、卵類、大豆製品、乳製品などに多く含まれています。しかし、食品によって高エネルギーのものと低エネルギーのものがあります。肉類であれば、脂質が多い牛肉や豚肉のロースやサーロイン、バラなどは高エネルギーです。
反対に、赤身・肩・ヒレ・もも、そして鶏肉は比較的低エネルギーです。脂質の摂りすぎは、腸内環境を悪化させたり、生活習慣病を招く可能性があるため良質なものを選ぶようにしましょう。
飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸を摂る
脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸という種類があります。飽和脂肪酸は常温で固形あることが多く、不飽和脂肪酸は常温で液体です。このうち、植物や魚の脂に多く含まれる不飽和脂肪酸には体内で合成することができない必須脂肪酸であるオメガ3・オメガ6が含まれており、これらは心血管疾患のリスクを提言する効果があります。
また、飽和脂肪酸は動物性脂肪に多く含まれ、摂取量が多いとLDL(悪玉コレステロール)が増え、心血管疾患のリスクが高まることが知られています。また、飽和脂肪酸の中でも良質なものとそうでないものがあります。
不飽和脂肪酸は、オリーブオイル、アボガドオイル、ごま油、グレープシードオイル、アマニ油、えごま油、魚の油などに含まれています。そして、良質な飽和脂肪酸は、バター、ラード、ギーなどに含まれていますが、これらは適切な量を心がけることが推奨されます。時間が経って酸化した油で調理されたものや、ファストフードやスナック菓子など手軽にとることができる安価なものは健康を害する危険性が高いため控えるのが良いでしょう。
炭水化物は白くないものを選ぶ
三大栄養素のうちのひとつである炭水化物は、私達にとって必要なエネルギー源です。炭水化物は体内でブドウ糖の形で存在しており、血液中のブドウ糖の濃度が「血糖値」です。糖尿病を始めとする生活習慣病の予防のためには、血糖値をコントロールするインスリンを分泌する膵臓への負荷を大きくし過ぎないことが重要です。
そのため、急激に血糖値を上昇させる高GI食品より、ゆっくりと上昇する低GI食品を選択することが推奨されます。精製された穀物で作られたフランスパン、食パン、うどんなどは高GI食品です。反対に、ライ麦パン、全粒粉パン、玄米、そばなどの精製されていない穀物で作られたものは低GI食品です。
しかし、これらの低GI食品の頻度が高いと消化の負担になることもあるため、意識してしっかり噛むことや消化の状況に合わせて白米も適度に摂るようにすると良いでしょう。また、精製されていないものは、反対に残留農薬が多くなるリスクも高まってしまいます。そのため、どこでどのような方法で栽培されたものかも意識してチェックするようにしましょう。
腎臓に悪い食べ物
最後は、腎臓の健康のために控えた方が良い食べ物についてご紹介します。
塩分は量より質を意識する
塩分は、高血圧を始めとして健康を害するイメージが強くありますがミネラルのバランスを整えてくれる必要な成分でもあります。しかし、どのような塩でもミネラルを取り入れることができるかというと、そうではありません。「塩」として販売されているものの中でも、良質なものとそうでないものがあります。
塩には、材料と作り方で「精製塩」「再生塩」「天然塩」があり、私達にとって必要であり良質な塩は「天然塩」です。天然塩は、単一の海塩や岩塩から作られています。塩を購入する際は、ラベルを確認し「イオン膜」「溶解」「立釜」などの表記がないものが天然塩です。
高GI食品より低GI食品を選ぶ(糖質、血糖コントロール)
前述のように、血糖値を急激に上昇させる高GI食品は、糖尿病だけでなく腎疾患のリスクも高めるため、控えるようにしましょう。中でも砂糖がたくさん使われているお菓子はGI値が高いものばかりです。また、料理をする際に使う甘味料にも気を使いたいところです。グラニュー糖、氷砂糖、水あめなどはGI値が高いため、てんさい糖などの天然の甘味料を使用するのがおすすめです。
食品添加物や保存料は控える
食品添加物は、様々な理由で使用されています。社会的なメリットがあると考えられている一方で、国によって使用が許可されている成分が異なっていたり、健康問題の可能性も考えられています。安全性が確認されているとされていますが、健康のためには摂り過ぎないに越したことはないでしょう。
また、食品添加物や保存料が多く含まれている加工品やレトルト食品など手軽に摂ることができる食品は、エネルギーの摂取はできても、野菜などが少なく栄養素が偏ってしまう傾向があります。
まとめ
元気な腎臓を維持するための食事は、腎臓のみならず様々な生活習慣病の予防や、健康維持のためにも有効です。心身共に健やかに過ごすために、健康的な食習慣は欠かせない要素です。日々の食事選びにおいて、良質な食材を選び、バランスの取れた食生活を心がけることが重要です。
参照元:
Hooper L, Martin N, Jimoh OF, Kirk C, Foster E, Abdelhamid AS. Reduction in saturated fat intake for cardiovascular disease. Cochrane Database of Systematic Reviews 2020, Issue 8. Art. No.: CD011737. DOI: 10.1002/14651858.CD011737.pub3.