腎臓の病気と聞くと「透析療法」をイメージする方も少なくないと思います。腎臓は体にとって不必要になったものを尿として排泄するために必要な臓器です。そのため、腎臓の機能が著しく低下してしまうと、一生涯治療が必要になってしまいます。
今回は、腎臓の働きや、腎臓の機能低下の原因や、気を付けたい生活習慣などについて解説します。
腎臓について
まずは、腎臓という臓器について知るところから始めましょう。腎臓がどのような臓器で、どのような働きをしているか解説していきます。
腎臓とは
腎臓は、腰の上の背中側に左右ひとつずつある長さは約12cm、重さは約150gの大きさのソラマメのような形をした臓器です。腎臓は、糸球体と尿細管に大きく分けられ、1つの腎臓の中には100万個のネフロンという構造が存在しています。
ネフロンは、尿を作るための最小単位で、血漿を濾過するための腎小体(糸球体とボーマン嚢)と、濾過された原尿(血液から作る初期の尿)から人の体に必要なものを再吸収する尿細管から成っています。
出典:ナース専科
腎臓の働き
腎臓と聞くと、尿を作る臓器というイメージが強いと思いますが、実は尿を作る以外の働きもしています。
水と電解質のバランスをとる
生命の維持のためには、水分の摂取と排泄が必要不可欠です。体内に入る水分量に比べて排泄量が不十分であると、水分が蓄積し命に関わることもあります。腎臓は、尿を作り水分を排泄し、体内の水分量に合わせて電解質の濃度を調整するという役割をしています。
濾過と排泄をする
栄養素が代謝された後の老廃物は、体外に排出される必要があります。タンパク質の代謝によって作られる尿素やその他の代謝による酸などの毒素や薬物などは、尿の中に含まれ体外に排出されます。
血圧を調節する
腎臓は、水分や老廃物以外にも過剰なナトリウムを排出することにより、血圧の調整を助けるという役割も担っています。排出されるナトリウムの量が少な過ぎると、血圧は上昇しやすくなってしまいます。また、腎臓から分泌されるレニンという酵素も血圧の調整に関与しています。
レニンはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)を活性化させ、血管の収縮やナトリウムの再吸収を促進して血圧を上昇させます。そのため、腎機能が低下すると、この血圧調節メカニズムがうまく機能しなくなり、高血圧のリスクが高まります。
赤血球の生成を助ける
腎臓では、赤血球の産生を促すエリスロポエチンというホルモンが作られています。これにより、赤血球の産生が活発になり、新しく作られた赤血球は骨髄から血液中に放出されます。
骨を健康に保つ
健康な骨の成長と維持にも、腎臓が関係しています。腎臓から分泌される1,25-ジヒドロキシビタミンD3はカルシウムとリンの代謝に重要な役割を果たすホルモンで、腎臓で活性化され、カルシウムの吸収を促進し骨の健康を支えているのです。
CKDと腎不全
腎炎などの病気で、血液を濾過する糸球体が障害されてしまうと、腎臓の機能が低下し、老廃物の排泄がうまくできなくなります。腎臓の損傷または機能低下が3ヶ月以上持続する状態を「慢性腎疾患(CKD)」、CKDが進行した最終段階を一般に「慢性腎不全」と呼びます。腎臓は、慢性的に機能が低下してしまうと、回復不可能となってしまいます。
腎機能低下の症状
腎臓の機能が低下したときには、以下のような症状が出現します。
泡状尿
尿中の過剰な泡は、血液中の主要なタンパク質であるアルブミン質が尿中に漏出していることを示します。
浮腫(むくみ)
腎臓から水分を十分に排泄できなくなることで体内に余分な水分がたまっている、または血中のタンパク質が尿中に漏出することにより、血液の膠質浸透圧が下がることで水分が血管外に移行して組織内に水分が蓄積する状態を浮腫と言います。
腎臓の病気による浮腫は左右対称で、浮腫んでいる部分を指で10秒以上押さえると、指の跡が凹んだまま残ります。浮腫は重力の関係で足から出ることが多いです。
尿量の変化
腎臓は血液中の老廃物を濾過し、尿として排泄する役割を担っています。健康な成人の1日あたりの尿量は1.0〜1.5lです。しかし、何らかの原因で尿量が変化することがあります。
1日あたりの尿量が400ml以下になることを乏尿といい、更に100ml以下になることを無尿といいます。反対に、1日あたりの尿量が2,500ml以上になることを多尿といいます。腎臓の機能が低下すると、尿の濃縮力が低下して多尿となり、夜間頻尿になることが多くなります。また、更に腎機能が低下が進行すると尿量が低下します。
夜間尿
夜間、排尿のために1回以上起きなければならない状態を夜間頻尿と言います。加齢と共に多くなる傾向があり、腎臓の病気以外のことが原因となることもあります。腎機能が低下した高齢者は、尿の濃縮能力が低下するため夜間多尿になります。
また、腎機能が低下すると、摂取したナトリウムを日中に排泄しきれず、夜間に血圧を高くしてナトリウムを排泄しようとするため夜間多尿となります。
頻尿
頻尿とは、1日8〜10回以上、夜間2回以上トイレに起きる状態のことを言います。頻尿には、尿量の増加(1日2L以上)と、回数の増加によるものがあります。
だるさ
腎不全により尿毒症物質が蓄積すると、だるさが認められることがあります。その他、腎不全による貧血や、体液が過剰になることによる心不全の悪化、電解質の異常などでもだるさが生じます。これは、末期腎不全の症状であることが多く、透析などの腎代替療法の検討が必要です。
貧血
腎機能が低下すると、エリスロポエチンの分泌が緩徐になるため、赤血球の産生能力が低下してしまいます。
皮膚のかゆみや乾燥
腎臓は、体の中や血液中の老廃物を尿中に捨てるという働きをしています。そのため、腎機能が低下すると、老廃物が十分に排泄されず、血液中や皮膚に停滞してしまいます。そして、それらの老廃物は皮膚の潤いを失わせると共に、皮膚の中にあるかゆみ受容体を刺激し、かゆみとなります。
発疹のあるかゆみは皮膚科で診てもらう必要がありますが、発疹がないかゆみの場合は、内科への受診が良いでしょう。
尿に血が混じる
腎臓のフィルターが損傷すると、血液中の血球が尿に漏れ出し始めることがあります。血尿は、腎疾患のシグナルに加えて、腫瘍・腎結石・感染症を示す場合もあります。
腎機能低下の注意点
腎臓の機能は、一度低下してしまうと回復が難しいことが知られています。しかし、早期であれば機能のさらなる低下を防ぐことが可能です。そのため、腎機能低下を予防すること、そして早期発見・早期治療がとても重要です。
腎機能低下の原因
最も一般的な腎機能低下の危険因子は、以下の通りです。
生活習慣病
高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、心臓疾患などの生活習慣病は、全身の血管に関連する色々な病気に深く関与しています。腎臓には、心臓から送り出される血液の20%が流れ込みます。そのため、生活習慣病による血管障害は腎臓にも悪影響を及ぼしてしまいます。
急性腎障害(AKI)の既往
急性腎障害(AKI)は、数時間から数日の短期間で腎臓の機能が急速に低下する状態を指し、体からの老廃物の排出能力が著しく低下します。これにより、体内に有害物質が蓄積し、水分や電解質のバランスが崩れ、場合によっては命を脅かす状態に至ることがあります。
AKIは、重大な疾患、手術後の合併症、特定に薬物の副作用、脱水になどによって引き起こされることがあり、早期の発見と適切な治療が重要となります。
高尿酸血症
痛風や腎結石症の原因となる高尿酸血症は、脳や心臓の血管障害、動脈硬化、腎障害を引き起こす生活習慣病のひとつと考えられています。血清尿酸値が7.0mg/dlを超えると診断名がつきますが、症状がない無症候性高尿酸血症の方が多いのが特徴です。
喫煙や有害物質(薬物も含む)の摂取
これらの行動は腎臓に負担をかけ、腎臓の損傷を引き起こす可能性があります。喫煙は血管を収縮させて血流を悪化させ、腎臓への酸素供給を減少させます。大量のアルコール摂取は血圧を上昇させ、腎臓疾患のリスクを高めます。また、一部の鎮痛薬は長期間にわたって使用すると腎臓の血流を減少させ、腎機能を損なうことがあります。
加齢
私たちは、それぞれの腎臓にネフロンを約100万個持って生まれてきます。しかし、年齢を重ねるにつれて一部のネフロンが失われ、他のネフロンの一部が若いときほど機能しなくなる可能性があります(ネフロンの損失は、腎臓の機能レベルを示す血液検査である推定糸球体濾過率 [eGFR]に影響します。加齢に伴い腎臓の機能がある程度低下するのは正常なことであり、必ずしも腎臓病の兆候であるとは限らないことに注意してください)。
ネフロンが減り、腎臓の機能が低下すると、腎臓がストレスに対処することが難しくなります。たとえば、糖尿病や高血圧などの病気は、老化した腎臓により多くのストレスを与えます。このストレスの影響は高齢の腎臓でより大きく、若い腎臓よりも多くの腎臓損傷を引き起こす可能性があります。
腎臓が古くなると、急性腎障害 (AKI)に苦しむ可能性も高くなります。AKIは非常に急速に起こる腎臓障害です。これは、特定の薬の用量が多過ぎる、または非常に暑い日に十分な水分を摂取していないなどの問題が原因で発生します。
腎機能低下の予防法
腎機能低下が慢性的になってしまうと機能の回復が難しいため、普段の生活の中で腎機能低下のリスクを減らしていきましょう。
塩分の摂り過ぎに気を付ける
腎機能低下には、高血圧などの生活習慣病が大きく関係しています。高血圧の予防のためには塩分の摂り過ぎに注意しましょう。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、成人1人1日当たりの目標量は、男性7.5g未満、女性6.5g未満と設定されており、高血圧及び慢性腎臓病の重症化予防のための食塩相当量は、男女共に6.0g未満とされています。
【塩分を控えるコツ】
・外食やインスタント食品、塩蔵品などを控える
・麺類を食べるときはスープは残す
・酸味や薬味、スパイスなどを利用して味にアクセントをつける
肥満予防を心がける
肥満は、さまざまな生活習慣病のリスク因子となります。また、BMIが高い人ほど腎機能が低下しやすいということが示唆されています。普段の食習慣や運動習慣などを見直し、肥満を予防することが大切です。
【肥満予防のコツ】
・運動習慣を持つ
・食事は規則正しく、よく噛むことを意識する
・夜に食べ過ぎないようにする
・間食やアルコールは適量にする
大量飲酒、喫煙、鎮痛薬などの常用を避ける
これらの習慣は、時間とともに腎臓の機能を徐々に低下させ、腎不全へと進行するリスクを高めるため、避けることが重要です。
毒素を避ける
重金属や化学製品をはじめとする毒素を避けることは、CKDの発症予防において重要です。これらの物質は腎臓に直接的な毒性を持ち、腎細胞を損傷することがあります。腎臓は体内からの毒素排出を担う重要な器官であるため、これらの有害な物質に長期間さらされると、腎臓のフィルター機能が徐々に低下し、結果としてCKDを引き起こすリスクが高まります。
重金属の過剰な露出は腎組織の炎症や線維化を促進し、化学製品に含まれる特定の成分は腎臓の細胞に直接的な毒性を示すことがあります。したがって、これらの毒素から身を守ることは、腎臓の健康を維持し、CKDの発症リスクを低減するために不可欠です。
まとめ
生命の維持に必要不可欠な働きをしている腎臓。そして、この腎臓の機能は一度低下してしまうと回復が難しいということが分かりましたね。腎臓にしっかりと機能してもらうためには、やはり毎日の生活の小さな積み重ねが大切です。普段の食習慣や運動習慣などを意識して、健康的に過ごし、元気な腎臓を維持しましょう。
参照:
Adiposity and risk of decline in glomerular filtration rate: meta-analysis of individual participant data in a global consortium.AR Chang et al. BMJ 2019; 364