2023.10.18

食事・栄養

ケトン体が危険と言われる理由|高いとどうなるの?

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田中 康規

麻酔科医/ヘルスコーチ

ケトジェニックダイエットや糖質制限に関心の高い方はご存知であろう「ケトン体」。このあまり聞き慣れない成分が、ダイエットや糖尿病と深く関連しているのです。

「ケトン体とは何か?」「体にどのような影響を及ぼすのか?」など、疑問に思うことはたくさんあると思います。

今回は、ケトン体のはたらきや危険性、増えると出る症状などについて解説いたします。

「ケトン体」って何?

ケトン体とは何か、体に及ぼす影響はあるのかなどを解説いたします。

ケトン体とは?

ケトン体とは、「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」「アセトン」の総称で、主に糖尿病絶食高脂質・低糖質の食事の際に増加する成分です。脳や筋肉のエネルギー源である糖質(グルコース)が利用できない代わりに、エネルギー源として使われます。

ケトン体が放出されて血液中に増加した状態を「ケトーシス」と呼びます。

ケトン体って、危険なの?

「ケトン体は危険」と思っている方も少なくないでしょう。実際、ケトン体が増えると、血液が大きく酸性に傾く「ケトアシドーシス」という重篤な状態を引き起こすからです。

重症糖尿病ではブドウ糖を十分に利用できないため、ケトン体が大量に産生されます。その結果、稀に糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こします。

しかし、一般の健常人がケトジェニックダイエットをしてもケトアシドーシスを引き起こす心配はありません。なぜなら、ケトン体が増えても、それほど血液は酸性に傾かず、健全な「生理的ケトーシス」になるからです。

脂肪酸がケトン体となってはたらく仕組み

糖質(グルコース)が枯渇すると、筋肉(タンパク質)や脂肪細胞に蓄えられている脂肪(脂肪酸)がエネルギー源となります。脂肪酸が、ケトン体となって働くまでの流れは以下の通りです。

1.糖によるエネルギーの供給が追いつかないとき、体に蓄えた脂肪から脂肪酸が切り離され、主に肝臓に運ばれる

2.細胞内小器官であるミトコンドリア内で、脂肪酸からアセチルCoAに変換される(β酸化)

3.HMG−CoAシンターゼという酵素により、アセチルCoAとアセトアセチルCoAが縮合し、HMG−CoAが合成され

4.HMG−CoAはHMG−CoAリアーゼによりケトン体であるアセト酢酸やβ-ヒドロキシ酪酸に変換され、エネルギーとして使用される

 

ケトン体に期待される健康効果

ケトン体が、人にとって良い影響を及ぼすと考えられる理由をご紹介いたします。

悪性腫瘍・神経変性疾患の改善

一般的に、ガン細胞はエネルギー源をブドウ糖に頼っています。ブドウ糖の利用ができなくなったガン細胞は弱り、正常の細胞はケトン体を利用して活動を続けることができます。また、ケトン体はてんかんや、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患においても有効です。

なぜなら、脳の神経細胞はケトン体も重要なエネルギー源だからです。ケトン体は、脳神経のエネルギー代謝を改善します。さらに、活性酸素や炎症から神経細胞を保護する作用などによって、脳神経障害を抑制できるという研究報告もあります。

このように悪性腫瘍、てんかん、アルツハイマー病などの神経変性疾患において、ケトン体は疾患の予防や改善が期待できます。

脳のはたらきが向上する

糖質は、3大栄養素のうちのひとつであり、体を動かすためのエネルギー源や体温の保持、脳のエネルギー源として活用されます。そのため、不足すると疲れやすさや集中力が低下してしまいます。このような糖質の働きから、糖質を制限するケトジェニックダイエットによるケトーシス という状態は、脳の機能に問題が生じるのではないかという疑問が生まれるのは自然ですよね。

しかし、ケトーシスの状態では、より多くのブドウ糖が脳に送り込まれて利用されます。一時的に体内でバランスをとるための調整が必要になる可能性はありますが、問題になることはありません。さらに、ケトジェニックダイエットにより体内で作られるケトン体の濃度は、「記憶力と正の相関がある」と言われています。

エネルギーが持続する

ブドウ糖は紙と葉のようなもので、すぐに利用されエネルギーを素早く高める特徴があります。それに対しケトン体は、ゆっくりと効率的に燃焼するという点で、木炭をイメージしていただけると良いでしょう。

現代人は、糖質をエネルギー源にしている方が多いため、疲れやすかったり、ダラダラ食べ続けてしまったり、集中力が続かないことが多いでと言われています。これに対し、脂質をエネルギー源とすることで、疲れにくく空腹感も少なくなり、無駄に食べ過ぎなくなることが期待できます。

寿命が伸びる可能性も

寿命が伸びる可能性が期待できるのは、代謝と長寿に関連した研究により、長寿に関連する遺伝子がケトン体産生を制御している酵素活性に影響していると言われているからです。

また、マウスに脂肪を多く含み炭水化物の少ない食事をさせたところ、平均寿命が13%も伸びたという研究もあり、これは人間では7〜10年に相当します。ケトン体を生成するケトジェニックダイエットが、寿命や健康に対して重要な影響をもたらすかもしれません。

 

ケトン体が高いとどうなるの?

ケトン体を多く産生し、脂質をエネルギー源にできるようになるとどうなるかを解説いたします。

空腹感が減っていく

私達が感じる空腹感は血糖値の影響を受けています。食べ物を食べ血糖値が上がると空腹感が緩和され、血糖値が下がると空腹を感じる仕組みになっています。

ケトジェニックは、血糖値の変動に関わる糖質を控えるため、血糖値の急な上昇や低下が起こりにくく空腹感をコントロールしやすいと言われています。糖質制限を始めたばかりのころは空腹を感じるかも知れませんが、体がケトーシスの状態になると、空腹感は弱くなるでしょう。

尿意が頻繁になる

実は、糖質である炭水化物は、タンパク質や脂肪に比べて水分を保持するという性質があります。そのため、糖質を制限することにより、余分な水分が尿として排出されます。余分な水分が排出されてしまうと尿の回数も落ち着いて来るでしょう。

しかし、排出される水分量が多くなると、喉も乾きやすくなります。尿の回数が増えたり、喉の乾きを感じたら、積極的に水分を摂るようにしましょう。尿の色が濃い時は、脱水傾向にある可能性があるため、尿の色もチェックするようにすると良いでしょう。

息や汗の匂いが変わる

体内でケトン体が上昇すると、血中ではなく肺から呼気中に放出されます。そのため、ケトン体が上昇すると呼気から独特の臭いが出ることがあります。この臭いのことを「ケトン臭」「アセトン臭」と呼び、口臭のみならず、汗や尿などにも影響します。

これは、体がケトーシスに傾いているという兆候です。ケトン臭の対策としては、水をしっかり摂り、尿と一緒にケトン体を排出するように意識することです。

 

ケトン体をつくり出す方法

ケトン体をつくり出す食事療法を、「ケトジェニックダイエット」と呼びます。その方法について解説していきます。 

積極的に食べるべき食品

ケトジェニックダイエットでは、炭水化物の摂取を1日あたり約20〜50gに制限し多くの健康的な脂肪やタンパク質、ときおり発酵食品を食べる事を重視します。

タンパク質 自然環境で育てられた牧草牛、鶏肉、豚肉、平飼いの卵
健康的なアブラ MCTオイル、エクストラバージンオリーブオイル、ココナッツオイル、アボカドオイル、グラスフェッドバター、ギー
低炭水化物の野菜 緑の野菜、トマト、たまねぎ、ネギ、ピーマン、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ、大根、アスパラガス、アーティチョーク、セロリ、ニンニク
血糖を高めにくい果物 グレープフルーツ、ベリー系果実、青リンゴ、アボカド
調味料 塩、こしょう、味噌(発酵食品)
ハーブ、香辛料 バジル、オレガノ、タイム、ローズマリー、ターメリック、シナモン、生姜ハーブ、香辛料 

 

食べない方が良い食品

成分表示のラベルを常に確認し、不健康な油人工甘味料砂糖などが過剰に入っている食品は避けるようにしましょう。 

加工植物油 サラダ油、ドレッシング、マヨネーズ
加工食品 炭酸飲料、ジュース、アイスクリーム、お菓子
穀物またはデンプン 小麦、パスタ、シリアル
アルコール ビール、ワイン、お酒を混ぜた飲み物

 

控えた方が良い食品

ケトジェニックダイエットを本格的に行い、体をシュガーバーニングからファットバーニングへ移行させたい方が、控えた方が良い食品があります。それは、米、根菜類、豆類になります。

これらの食品は糖質が多く、血糖値を上げてしまう特徴があります。ファットバーニングになって早く効果を得たい方は、ケトジェニックダイエット期間中はなるべく控えましょう。ただし、無理は禁物なので、心と体の状態を優先して必要な栄養はきちんと摂ってください。

ダイエットを行う期間は?

ケトジェニックダイエットを始めたばかりの人は、体がケトーシス状態になるまで少なくとも2〜4週間は継続することをおすすめします。

筋肉中のグリコーゲンを定期的に補充しないといけないアスリートの方などは、炭水化物を普段より多めに摂る日(チートデイ)を設けても良いでしょう。

ダイエット目的の人は、通常の方法のまま続けて体調の変化を観察しながら継続してください。ケトジェニックダイエットに挑戦してみたい方は、下の記事から詳しい方法をチェックしてみてください。

ケトジェニックダイエットの1週間メニュー例|食品の選び方

 

まとめ

「ケトン体」という成分は、さまざまな研究により病気予防やダイエット、疾病の改善に一役買うものとして注目されるようになりました。無理のない範囲内でケトン体を産生するための食事を実践し、健康維持や減量に役立ててみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

田中 康規 麻酔科医/ヘルスコーチ

 
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