2024.08.28

食事・栄養

高血圧の基準はおかしい?|基準やメカニズム、予防するための生活を解説

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三浦 昂

消化器病専門医

多くの方が見たり聞いたりしたことのある「高血圧」。高血圧は、喫煙と並んで日本人の生活習慣病死亡に最も大きく影響する要因となっています。しかし、高血圧の基準やどのような仕組みで血圧が上がるのか知っている方は少ないのではないでしょうか。

今回は、高血圧の基準や血圧が上がるメカニズム、そして高血圧予防のための生活習慣などについて解説していきます。

高血圧の基本

まずは、高血圧について基本的なことを解説していきます。

高血圧の種類

高血圧には、本態性高血圧と二次性高血圧があります。

本態性高血圧

日本人の高血圧は、大部分が本態性高血圧です。本態性高血圧とは、原因となる疾患がなく色々なことが組み合わさって起こる高血圧のことをいいます。塩分の過剰摂取、肥満、飲酒、運動不足、ストレス、遺伝的体質などが要因となると考えられています。特に65歳以上では、塩分の過剰摂取が高血圧の誘発因子となる可能性が高くなります。

二次性高血圧

本態性高血圧とは対照的に、原因となる疾患があり高血圧を起こすものをいいます。

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群
・原発性アルドステロン症
・腎実質性疾患
・腎血管疾患 など

高血圧の基準

高血圧の基準は以下のようになっています。診察室での収縮期血圧(最大血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)が90mmHg以上の場合を高血圧といいます。また、自宅で測る家庭血圧は、診察室血圧よりも低い基準が用いられます。

分類 診察室血圧 家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧 収縮期血圧 拡張期血圧
正常血圧 <120 かつ <80 <115 かつ <75
正常高値血圧 120-129 かつ <80 115-124 かつ <75
高値血圧 130-139 かつ/または 80-89 125-134 かつ/または 75-84
I度高血圧 140-159 かつ/または 90-99 135-144 かつ/または 85-89
II度高血圧 160-179 かつ/または 100-100 145-159 かつ/または 90-99
III度高血圧 ≧180 かつ/または ≧110 ≧160 かつ/または ≧100
(孤立性)収縮期高血圧 ≧140 かつ <90 ≧135 かつ <85

高血圧の基準値

現在の高血圧の基準は、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上です。この基準は、日本高血圧学会が定めたものであり、2019年に米国で導入されたより厳しい基準(130/80mmHg以上を高血圧と定義)とは異なります。血圧が120/80mmHgを超えると、脳血管疾患や慢性腎臓病のリスクが増加することが知られています。より低い血圧が予後改善に寄与する可能性があるため、厳格な血圧管理が推奨されることがあります。

日本における高血圧患者

厚生労働省の平成29年(2017年)「患者調査」によると、高血圧性疾患で医療機関に通院している推定患者数は993万7,000人で、これは前回調査と比較して減少しています。この減少は、高血圧治療の進歩や食塩摂取量の低下などが背景にあると考えられています。しかし、高血圧は自覚症状が少ないため、治療を受けていない患者も多く、全体として推定4300万人が高血圧であるとされています。

 

高血圧による影響

高血圧になると、色々な疾患になるリスクが上がることは多くの方が知っていることだと思います。ここからは、高血圧がどのようにして起こるか、そして高血圧になるとどのようなリスクがあるかについて解説していきます。

高血圧のメカニズム

まず、血圧とは心臓から送り出された血流が血管の内壁を押す力のことです。そして、私達の体には、この血圧を調整する仕組みがあります。血圧は「心臓が送り出す血液量」「動脈経」「血流中の血液量」により変動します。血圧が上昇するときに起こる体の変化には、次のような仕組みがあります。

・心拍出量の増加:心臓が強く早く拍動することで心拍出量が増加し、これにより血圧が上昇します。
・血管収縮と動脈硬化:動脈が収縮し、その内腔が狭くなると、通常より狭い空間を血液が通過することになります。このとき、総末梢抵抗が増加し、血圧が上昇します。また、動脈硬化が進行すると、血管が弾力を失い、血圧がさらに高くなるリスクがあります。
・血液量の増加:血液量が増加すると、血管内の圧力が高まり、血圧が上昇します。特に腎臓がナトリウムと水分の排出を十分に行わない場合、血液量が増加し、これが高血圧につながることがあります。

反対に、心臓の弱く遅い拍動、血管の拡張、血流の減少などにより血圧が下がるということになります。

血圧の調整機構

このような血圧の変動の仕組みを調整しているのは主に交感神経と腎臓です。交感神経は心拍数や血管の収縮を制御し、急性的な血圧調整を行います。また、腎臓はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)を通じて、ナトリウムと水分のバランスを調整し、血圧の長期的な管理に関与します。

高血圧によるリスク

高血圧には特徴のある症状がほとんどないため、健診などで高血圧を指摘されて放置する人が少なくありません。しかし、高血圧の状態が続くと、症状がないにも関わらず負担のかかる血管や臓器に様々な合併症が起こります。特に問題となるのが動脈硬化です。動脈硬化とは、動脈の壁が硬くなり弾力が失われた状態のことをいいます。動脈硬化が起こると、狭心症心筋梗塞、心不全などの心疾患、脳出血脳梗塞などの脳血管疾患、さらに認知症などのリスクを高めてしまいます。

 

高血圧の予防のための生活習慣

高血圧にならないためには、食事を始めとする生活習慣が大きく影響すると考えられています。ここからは、高血圧予防のための生活習慣について紹介していきます。

高血圧予防のためのDASH食

DASH食とは、”Dietary Approaches to Stop Hypertension”(高血圧を防ぐための食事療法)の頭文字を取ったもので、アメリカで考案された高血圧予防のための食事法です。脂肪分やコレステロールの摂取を減らし、野菜、果物、豆類、全粒穀物、魚介類の摂取を増やすことで、中等度の高血圧患者において降圧効果が期待できるとされています。日本人は塩分の摂取量が多い傾向があるため、普段から減塩を意識することも重要です。

【DASH食のポイント】
・脂肪の多い肉類や砂糖を含む甘いものを減らす
肉類よりも魚介類を選ぶことを推奨します。調理の際には、皮や脂肪を取り除き、茹でる、焼くなどの調理法を選びましょう。

・野菜、海藻、果物、豆類、全粒穀物を摂る
カリウムはナトリウムを排出する働きがあり、DASH食ではカリウム、マグネシウム、ミネラルを豊富に含む食品を推奨しています。特に食物繊維を多く含む野菜や果物を摂ることが重要です。大豆製品、乳製品、バナナ、アボカド、ブロッコリー、ナッツ類、いわし、しらすなどは、ミネラルを効率よく摂取できるため、特におすすめです。

適度な運動

定期的な運動は、高血圧の予防や管理に効果的です。しかし、運動習慣が全くない人が急に激しい運動を始めると、心血管系に負担がかかり、リスクが増加する可能性があります。運動を久しぶりに行う場合は、自分の体調に合わせ、無理のない範囲で始めることが大切です。

運動としては、1日30分程度のウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動が効果的です。これに加えて、筋力トレーニング(無酸素運動)を組み合わせることで、血圧管理の効果がさらに高まることが示されています。無理なく続けることが重要で、運動習慣がない場合は週に2回から始め、徐々に頻度を増やすことをお勧めします。

その他の生活習慣

飲酒

過度な飲酒は高血圧のリスクを増加させることがわかっています。飲酒する場合は、1日あたり日本酒1合程度に抑え、週に一度は休肝日を設けることが推奨されます。

喫煙

喫煙は血管を収縮させ、血圧を上昇させる原因となります。また、タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、動脈硬化を進行させ、高血圧や他の生活習慣病のリスクを高めることが明らかになっています。喫煙習慣がある方は、禁煙外来などでの相談を検討する価値があります。

睡眠

睡眠時間が短すぎても長すぎても、心血管疾患のリスク要因になることがわかっています。特に、短い睡眠時間は高血圧の発症リスクを高めることが示されています。睡眠に問題がある場合、寝る前にブルーライトを避ける、朝に日光を浴びるなどの対策が有効です。また、睡眠の質に問題を感じる場合、睡眠時無呼吸症候群などの別の病気が原因である可能性もあるため、改善が見られない場合は専門医への相談が必要です。

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まとめ

高血圧の基準が変わった背景には、血圧が低い方がさまざまな疾患のリスクが低いというエビデンスに基づいた結果があります。特に、血圧が140/90 mmHgを下回ることで心血管疾患のリスクが低減することが複数の研究で示されています。そして、原因疾患のない本態性高血圧については、生活習慣の改善によって予防や管理が可能であると考えられています。

血圧を含め、心身ともに健康を維持するためには、バランスのとれた食事、定期的な運動、十分な睡眠など、生活リズムを整えることが基本となります。自分に合った健康的な生活習慣を心がけていきましょう。

この記事の監修者

三浦 昂 消化器病専門医

 
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