健康のために「免疫」が大切だと知っている方も多いと思います。しかし、その免疫が私達の体の中でどのような仕組みで、どのように働いているかを理解している方は多くは無いと思います。
今回は、免疫の仕組みや働き、そして免疫に異常が起こるとどのような病気になるのかなどについて簡単に解説していきます。
免疫とは
多くの方が、風邪を引いたり、病気にならないためには免疫力を高めた方が良いと認識していると思います。では、その「免疫」という言葉、よく聞くけど一体どのようなものなのでしょう。
免疫の役割
「免疫」とは、外から侵入してきたウイルスや細菌などから体を守るための働きのこと。この働きにより、自分自身の細胞か異物かを判断して異物のみを攻撃します。攻撃された異物は、体から取り除かれます。この免疫の働きを免疫機能といい、この機能には「細胞性免疫」と「液性免疫」という2種類があります。
一般的に、この免疫の機能がうまく働いていることを「免疫力が高い」と表現され、免疫力が高いと外敵から体を守る働きが強いため、風邪や病気になりにくいのです。
細胞性免疫
細胞性免疫の中で、中心的な役割を担っているのは「T細胞」という免疫細胞です。3種類のT細胞がそれぞれに異なる作用をして、ウイルスや細菌を排除する働きをしています。3種類のT細胞は、以下のように働きます。
ヘルパーT細胞:細胞性免疫のリーダー的存在。別の細胞から異物の情報を受け取ったら、サイトカイン(免疫細胞が作り出すタンパク質)を産生します。それによってキラーT細胞やマクロファージなどの異物を直接攻撃する細胞やB細胞を活性化させます。
キラーT細胞:戦う細胞。ヘルパーT細胞からの指示や、その他の細胞からの異物情報を受けて感染細胞やがん細胞を攻撃、排除する役割があります。
制御性T細胞:ヘルパーT細胞の1種類で、免疫の調整役をする細胞。キラーT細胞が正常な細胞まで攻撃しないようにしたり、免疫反応を終わらせたりする役割があり、自己に対する過剰な免疫を制御する役割を持っています。
液性免疫
液性免疫は、「B細胞」という免疫細胞が主体となって働きます。液性免疫は、異物を排除する働きを持つ「抗体」を作ることで異物に対抗します。抗体が産生されると、体液中を循環して全身にまわります。そして、異物を食べる働きを持つ食細胞の働きが促進されたり、異物が弱ったりします。また、次に同じ異物が侵入してきたときに抗体を作ることができるように準備します。
免疫グロブリンとは
免疫グロブリンは、上記で解説した液性免疫(B細胞)で作られる抗体のことを指します。ここからは、免疫グロブリンについて解説していきます。
抗体とは
抗体は、免疫グロブリンというタンパク質です。特定の異物にある病気の元になる抗原と結びつき、その異物を無毒化したり体の中から排除したりという役割を持ちます。私達の体には、この抗体を作る仕組みが備わっているため、どのような異物が侵入してきても、ぴったりと合う抗体を作ることができます。
私達が行っている予防接種も、この仕組みを利用したものです。予防接種は、病原性を無くしたり、弱めたりした抗原をワクチンとして摂取することにより抗体を作るものです。抗体が体の中で作られることにより、次に抗原が入ってきたときに異物とスムーズに戦うことができます。
免疫グロブリンの種類
抗体の働きを持つ免疫グロブリンには、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5つの種類があります。それぞれの機能や効果などを見ていきましょう。
IgG
5種類の中で最も多いグロブリン。全体の80%を占めており、細菌やウイルスを防御する役割を担っています。体に入ってきた抗原と結合して、病原体やウイルスの働きを止めたり、白血球の働きを助けます。
妊娠中は、胎盤を通して胎児に移行する性質があるため、生まれてから数ヶ月間は赤ちゃんの免疫として働いてくれます。
IgA
2番目に多いグロブリン。鼻水、涙腺、唾液、消化管、膣などの粘膜の表面に分泌されており、中でもそのうちの60%以上は腸管に存在しています。IgAは、粘膜の表面で抗原と結合し、病原体やウイルスの病原性を無くしたり弱めたりします。IgAは、特定の抗原だけでなく多くの種類の細菌やウイルスに反応するという特性があります。そのため、様々な感染症の予防をしてくれます。
また、IgAは出産後の数日の間に分泌される初乳にも含まれています。初乳を与えることの大切さが謳われる背景には、このIgAの存在があるのです。
IgM
病原菌やウイルスに感染したときに最初に作られるのが、このIgMです。抗原と効果的に結合できる構造を持っています。抗体の働きを補う「補体」というタンパク質と力を合わせて病原菌やウイルスなどを破壊したり、白血球が壊した菌を食べるのを助けます。
IgD
IgEの次に少ない免疫グロブリン。骨髄、リンパ節、脾、唾液腺、乳腺、扁桃、腸管粘膜などに分布しています。主に鼻や喉に症状が出る上気道感染の防御に重要な働きをしていると考えられています。他の免疫グロブリンと比較すると完全に機能が解明されていません。しかし、B細胞を活性させたり、免疫のバランス調整を行うといったことが徐々に分かってきています。
IgE
最も少ない免疫グロブリン。体の中に入ってきたアレルギーの原因となる物質である花粉やハウスダストなどのアレルゲンに反応します。それにより、マスト細胞や好酸球が活性化され、ヒスタミンやロイコトリエンなどを産生し、アレルゲンを排除しようとします。しかし、ヒスタミンやロイコトリエンが過剰に分泌されてしまうと、アレルギー反応(くしゃみ・鼻水・発疹・痒みなど)が引き起こされます。
免疫グロブリンの異常
上記の免疫グロブリンは、私達の体を守るために重要な働きをしてくれています。しかし、これらに異常が起こってしまうと様々な疾患が引き起こされてしまうこともあります。
ここからは、免疫グロブリンの異常によって起こる疾患を紹介していきます。また、病気の予防や治療に使用される免疫グロブリン製剤についても少し触れていきます。
免疫グロブリンの異常と疾患
高値 | 低値 | |
IgG | 多発性骨髄腫 膠原病 自己免疫疾患 肝疾患(肝硬変・慢性肝炎) IgG関連疾患 |
原発性免疫不全症候群 IgG型以外の骨髄腫 ネフローゼ症候群 蛋白漏出性胃腸症 |
IgA | IgA型多発性骨髄腫 IgA関連疾患(IgA腎症・IgA血管炎) ウィスコット・オルドリッチ症候群 慢性炎症性疾患 慢性肝疾患 |
原発性免疫不全症 ネフローゼ症候群 蛋白漏出性胃腸症 IgA型以外の多発性骨髄腫 |
IgM | 高IgM症候群 原発性マクログロブリン血症 肝疾患 膠原病・自己免疫疾患 |
原発性免疫不全症候群 多発性骨髄腫 リンパ系腫瘍 蛋白漏出性胃腸症 |
IgD | IgD型骨髄腫 高IgD症候群 |
無γグロブリン血症 |
IgE | IgE型多発性骨髄腫 アレルギー性疾患 気管支喘息 好酸球性多発血管炎性肉芽種症 蕁麻疹 食物アレルギー 寄生虫感染 アナフィラキシーショック |
原発性免疫不全症候群 IgM症候群 無γグロブリン血症 |
免疫グロブリン製剤とは
免疫グロブリン製剤とは、血液の中の血漿という成分の中にある免疫グロブリンや抗体と呼ばれるタンパク質を含んだ薬剤です。これは、献血による血液を原料として作られています。人の血液が原料であるため、感染などのリスクや副作用の可能性がありますが、製造過程での厳格なスクリーニングと処理により、これらのリスクは最小限に抑えられています。
免疫グロブリン製剤には、大きく分けて2種類のものがあります。
一般的免疫グロブリン製剤:様々な抗体を幅広く有するもの。筋肉注射、静脈注射、皮下注射で投与されます。
特殊免疫(高度免疫)グロブリン製剤:特定の病原体に対する抗体を含む血漿からつくられるもの。抗HBs人免疫グロブリン製剤、破傷風人免疫グロブリン製剤、抗D人免疫グロブリン製剤の3種類があります。
免疫力を高める方法
私達の体が元気でいるためには、免疫力が大切な役割をしているということが分かりましたね。最後は、免疫力を高める方法について簡単にご紹介します。
バランスの良い食事
心身健康な状態を保つためには、色々な栄養素を満遍なく摂ることが大切です。食事の時間や内容が整うことで便通が整うことにも繋がります。腸管にはたくさんの免疫グロブリンが存在しているため、腸内環境を整えることが免疫力のアップにも繋がります。
質の良い睡眠
生活が不規則になり、睡眠の質が悪かったり十分な睡眠がとれていないと、十分な休息がとれません。また、寝ているときに分泌される成長ホルモンには体の細胞の回復や修復を促し、免疫力の維持や強化をしてくれる作用があります。
適度な運動
適度な運動は免疫機能を向上させることが分かっています。激し過ぎる運動は逆効果になるため、適度な運動習慣を持つと良いでしょう。適度な運動とは、軽く汗をかき、少し心拍数が上がるくらいの運動です。散歩やランニングなどの有酸素運動から始めると良いでしょう。
サプリメント
自身の食事だけで不安な方はサプリメントで補うのも方法のうちのひとつです。しかし、サプリメントはあくまで栄養を補助するためのものです。サプリメントをとっているから何を食べても良いというわけではありません。プロポリス、亜鉛、ビタミンD、腸内環境を整えるプロバイオティクスやプレバイオティクス なども良いでしょう。
まとめ
私達が健康であるためには、体の中で働いてくれている免疫機能がしっかりと働いてくれることが重要であることが分かりましたね。そして、この免疫機能がしっかりと働くためには、日々の生活の中で食事、睡眠、運動に気をつけてコツコツと続けることが大切です。どんな感染症が流行っても、負けないように免疫力を高めていきましょう。