2024.01.04

食事・栄養

必須ミネラル「セレン」とは|摂取時の注意点や効果について解説

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竹内 久美

産婦人科医/ヘルスコーチ

人間には健康を維持するために重要な役割を持つ必須栄養素が約46類種存在しています。そのうちの一種である「セレン」という栄養物質をご存知でしょうか。

セレンは身体に有益な効果をもたらす重要な栄養素の役割を担っている一方で、過剰に摂取し続けると、中毒症状を引き起こす毒性の性質を併せ持っているため、取扱いが非常に難しい栄養成分と言えます。

この記事ではセレンの基本的な概要についてご紹介すると共に、身体にどのような影響を及ぼすのか、研究結果に基づき主な効果や注意点について詳しく解説します。

セレンについて

まずはセレンとはどのような物質なのか、セレンに関する基本情報からご紹介していきます。

セレンとは

セレンとは必須栄養素の一つであり、人間にとって重要な役割を担っています。食品に多く含まれていますが、本来は水や土壌に存在している元素であり、植物が土壌から栄養を吸収する過程の中で食品に取り込まれます。

そのため食物に含まれているセレンの量は、各地域の土壌によって異なります。国によっては土壌に含まれるセレンが少ないことによりセレン不足となる人が約10億人にも及ぶと言われています。

日本の土壌にはセレンが十分に存在していることから、適切な食生活を送っていれば体内で必要量を維持することができる物質です。

推奨摂取量

セレンの推奨摂取量は年齢によって異なります。成人の場合、18歳以上の男性は30μg、女性は25μg。耐容上限量は18〜74歳の男性は420μg、女性は330μgとなっています。耐容上限量を超えた状態が続いてしまうと、セレン中毒を発症するリスクが高まるので推奨摂取量を目安に取り入れることを心がけましょう。

また、妊娠中から産後の周産期における女性の場合はとくに栄養バランスが不安定になりやすくなっています。妊娠中は30μgm、授乳中は45μg、通常よりも多めのセレン摂取が推奨されています。

セレンの摂取方法

セレンは主に、食品やサプリメントから摂取することができます。代表的な食品は主に、マグロやいわし、たらこなどの魚介類や藻類、小麦胚芽や玄米、肉類、野菜、卵黄に多く含まれています。

基本的には日本の場合、各食品の中にも土壌を介してセレンは十分に含まれているので、含有量の高い食品を積極的に取り入れなくとも必要量を維持することができています。

一方で、過度なダイエットによる食事制限をしている人、添加物の多い加工食品を摂取することが多い人など、偏食傾向で食事のバランスが不安定な人は通常と比べてセレンが不足しやすくなっている可能性があります。

食品から栄養素をバランスよく供給することが難しい人は、簡易的で継続しやすいサプリメントを利用することがおすすめです。サプリメントを摂取する際は販売会社によって含有量が異なるので、推奨摂取量を目安に選択しましょう。

 

セレンの効果

セレンには体の酸化(サビ)を予防し、健康を維持する働きの他にも、がん予防やデトックス作用にも効果を発揮します。各研究結果に基づき、セレンの効果について詳しくご紹介します。

がん予防

がんは身体のあらゆる部位に発生する病気ですが、セレンはがんの中でも前立腺がんの予防に効果的であると言われています。前立腺がんは男性の高齢者に多く発症する病気であり、日本人の11人に1人は前立腺がんの診断を受けるほど発症率の高い病気です。

実際に米のハーバード大学では、セレンと前立腺がんの発症予防効果に関する研究を実施しその科学的根拠を明らかにしました。その研究内容とは、健康な男性1,163人を対象に1982年から13年間追跡を行い、前立腺がんを発症した人とそうでない人をグループ分けしました。

そして、前立腺がんを発症したグループの人たちの研究開始当初のセレン濃度と追跡後のセレン濃度を比較した結果、セレン濃度が最も高かったグループは最も低いグループに比べて前立腺がんになるリスクが48%低いことがわかりました。この結果から、セレンは前立腺がんの進行を遅らせることができ、予防効果が期待できると研究者は述べています。

その他にもセレンの持つ抗酸化作用は、がんを発症する可能性のある活性酸素(ヒドロキシラジカル)を除去する働きがあります。細胞を健康に活性化させることによって免疫力が高まるので、病気に負けない身体を作るためにも重要な役割を果たします。

デトックス作用

セレンは身体に蓄積された水銀やヒ素、カドミウムといった重金属の毒性を軽減する働きも持っています。重金属とはミネラルの一種であり、環境汚染や自動車の排気ガスなど日常においてさまざまな環境因子によって、知らずのうちに体内に蓄積される物質です。蓄積量が多くなるほど身体に悪影響を及ぼします。

実際に行われた動物実験ではラットを対象に1週間高い濃度の水銀を含ませたエサを与え続けた後、セレン化合物を摂取させた結果、大幅に体内の水銀濃度が減少したことが明らかになりました。

このことから、人を対象とした結果は現段階ではまだ得られていないものの、セレンは身体に有害な物質を抑制させるデトックス作用が期待できるということが証明されています。

この研究以外にも、セレンは甲状腺ホルモンの働きを正常に作動させる役割を担っています。食品に含まれるヨウ素を過剰摂取すると、甲状腺ホルモンに悪影響を及ぼしホルモンバランスが不安定になることで身体にさまざまな症状が起こります。しかしセレンを適量摂取することで、体内にある不要なヨウ素をデトックスさせ、炎症を沈静化させることができます。

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摂取時の注意点

セレンは人間にとって重要な栄養素の一つですが、その一方で毒性の性質も持っています。必要量と中毒量の領域の差が狭いので摂取する際には注意が必要です。この項目では、セレンの過不足により起こる影響について解説します。

セレン欠乏症

セレンが体内で不足した状態が慢性的に続いてしまうと、セレン欠乏症という病気を発症することがあります。セレン欠乏症の代表的な症状は主に4つあります。

1. 心筋症(心不全)
2. 四肢の筋肉痛
3. 筋力の低下
4. 爪の白色化

これらの所見以外にも、白内障の発症や、更年期症状の悪化を起こす可能性があります。症状以外にもセレン欠乏によって起こる病気が2つ存在します。

1. 克山病
心臓の内側に障害を与え心筋症を引き起こす病気。特に中国の一部の地域では土壌のセレンの含有量が少ないことによって多く発症する風土病。

2. カシン・ベック病
主にチベット特有の風土病。関節と骨に炎症を起こし痛みを伴う病気。主に子供(5〜13歳)の子供に発症しやすく、重度になると骨の変形が起こります。

このようにセレンが欠乏することによって病気へと移行するケースも稀にありますが、日本の場合、セレンが欠乏する原因は基礎疾患のある人に多く出現します。主に腎不全透析中の人、食事摂取が難しく経腸栄養剤を利用している人は栄養状態が不安定になりやすいことから発症リスクが高いので注意が必要です。

基礎疾患がない場合でも偏食傾向の人やダイエットによる過度な食事制限をしている人もセレン不足になりやすくなります。偏った食生活にならないよう、バランスの良い食事を心がけましょう。

過剰摂取

セレンは不足すると悪影響を及ぼす一方で、慢性的に過剰な状態が続くとセレン中毒という中毒症状を引き起こす可能性があります。日常の食生活だけでは起こりにくい症状ですが、健康目的でサプリメントを利用している人は必要量以上のセレンを摂取し続けている可能性があるので注意しましょう。中毒症状になると以下の症状が起こります。

・呼気がニンニク様の臭いになる
・口の中が金属様の味がする
・脱毛
・下痢
・けいれん

更に長期的な過剰摂取状態が続くと中毒症状も悪化します。重度の胃腸障害や腎不全へと移行するケースもあるので、初期の段階で不調が現われた場合はすぐにサプリメントの摂取は控えましょう。

 

まとめ

セレンは健康を維持するために重要な働きをする栄養物質ですが、他の栄養素と比べ必要量と中毒量の範囲が狭い物質です。そのため体内で必要量のバランスが崩れた状態が続いてしまうと、セレンの持つ有益な効果ではなく、中毒症状を引き起こす可能性が高くなります。

サプリメントを取り入れる際は用法を守り、推奨摂取量を目安に適切な量を摂取することを心がけましょう。セレンは意識して積極的に摂取をしなくても食品の中に十分に含まれています。まずは基本的な食生活を見直すことから始めてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

竹内 久美 産婦人科医/ヘルスコーチ

 
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