2023.07.12

睡眠

成長ホルモンの分泌を促す睡眠のコツ|ゴールデンタイムって本当?

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植田 祐己

美容皮膚科医

睡眠は疲労回復を図るだけではなく、成長ホルモンという物質に大きく関与し、この物質が作り出す有益な効果によって健康が維持増進されています。最近は睡眠に関する研究が進み、睡眠の質やその重要性についてさまざまなことが明らかになってきています。

この記事では、睡眠と成長ホルモンの関係性や考えられてきた睡眠に対する概念の変化について、科学的根拠を基に詳しくご紹介します。

成長ホルモンと睡眠の関係

成長ホルモンに関する基礎知識や分泌の活性化と睡眠の関係性について、3つの項目に沿ってご紹介します。

成長ホルモンとは?

ホルモンにはさまざまな種類があり、体の各部位で健康を維持するために分泌され、効果を発揮しています。その中でも成長ホルモンは、脳の下垂体という部位から分泌される脳内物質であり、日中も分泌されますが睡眠によって分泌濃度が高くなると言われています。睡眠の質が高いほどに身体にもたらす有益な効果を十分に得ることができる物質なのです。

成長ホルモンを分泌させるポイント

睡眠には、2種類の睡眠型があります。

①レム睡眠
身体は休息状態ですが脳が覚醒している状態(浅い睡眠)

②ノンレム睡眠
入眠直後に現れる睡眠状態 
脳や身体が完全に休息している状態(深い睡眠)

睡眠はこの2種類の状態が、約90分周期で繰り返されています。そして、この一連の睡眠周期のことを「メジャースリープ」と呼びます。良質な睡眠を得ることは、良好なメジャースリープが睡眠中に維持されていることを示します。それによってホルモン分泌が活性化され、より成長ホルモンの高い効果を得ることができます。

このように、成長ホルモンは決められた時間に分泌されるものではなく、入眠してすぐに訪れる深い睡眠状態(ノンレム睡眠)である約90分間が、一番ホルモン分泌が活性化されている時間となります。

日常的に眠りが浅くて熟睡感がない、覚醒しやすく深く眠れていないという方はメジャースリープが崩れやすくなっており、睡眠環境や精神的な影響によって左右されやすくなっているかもしれません。

このような状態が続いてしまうとノンレム睡眠に入りにくくなり結果的にホルモン分泌を十分に行うことができないという状況に陥ってしまうため、ご自身にあった睡眠環境を整え直してみましょう。

どのくらい眠ればいいの?

成長と共に必要とされる睡眠時間も変化していきます。子供のときはよく眠っていたのに、歳を重ねるにつれて睡眠時間が短くなるという現象は加齢に伴い活動量が減り、必要なエネルギー供給が短時間で完了するからであるとも言われています。

各年代ごとの理想的な睡眠時間について、厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針検討会報告書」では、以下のように推奨しています。

10歳代:8〜10時間
成人以降〜50歳代:6.5〜7.5時間
60歳代以上:6時間弱

この時間は目安であり睡眠は個人差も大きいため、普段の睡眠時間が短いからといって問題が起こるわけではありません。実際には翌日に不調が出ず、日中に眠くならない程度の睡眠時間が適切と言えるでしょう。

睡眠のゴールデンタイムについて

美肌や健康を維持するためには、「ゴールデンタイムが大切」という言葉を耳にしたことがある方も多くいるのではないしょうか。ゴールデンタイムとは、主に22時〜2時頃までを示しています。この時間は成長ホルモンの分泌が活性化されやすい時間帯であると考えられ、睡眠をとることによって成長ホルモンによる効果を十分に得るための指標として多くの場面で使用されてきました。

しかし現在では、そのような概念は間違いであることが明らかになっています。ゴールデンタイムとされている22時〜2時という時間はあくまでも目安でしかなく、実際重要なのは眠る時間帯ではなく、いかに良質な睡眠をとることができるかという点が成長ホルモンの分泌に大きく関与していることが明らかとなりました。

就寝時間の概念に捕われるのではなく、健康や美を保つためには良質な睡眠をとること、そのためには環境を整え、備えることを意識して行うことが重要であると言えるでしょう。

成長ホルモンのはたらき

成長ホルモンは、主に身体のメンテナンスや代謝に大きく関与しています。全身の細胞を活性化させてエネルギーを蓄えることにより、ターンオーバーが促進され美肌や髪の健康に効果を発揮するほか、免疫細胞にも関与しており、風邪を引きにくくする効果もあります。

その他にも細胞の修復効果を担っており疲労回復を促し、筋肉や骨の成長にも大きく関与しています。成長ホルモンという名前がつけられている通り、人間の成長において必要不可欠な物質なのです。また、各期において成長ホルモンの役割は以下のように変化していきます。

小児期:骨や筋肉、各臓器の成長に大きく関与。
思春期:性的成熟の成長を促す。
成人期:代謝の調節や免疫力の向上、疲労回復を促す。

このように、成人においても成長ホルモンは生命維持、健康維持のために必要不可欠な役割をしています。

 

成長ホルモンの分泌を促す睡眠のコツ

成長ホルモンの効果を十分に得るためには、良質な睡眠を得ることが必要です。良好なメジャースリープを維持するための具体的な方法についてご紹介します。

体内時計を整える

人間には、サーカディアンリズム(概日リズム)と言われる体内時計が備わっています。これは朝日が昇ると共に自然と目が覚め、日中は活発に活動し各時間帯になるとお腹が空く。夜間になると自然と眠たくなるという一見当たり前のような習性ですが、人間にとって非常に重要な基本的リズムです。

このリズムを整えるためのホルモンが、メラトニンという物質になります。メラトニンは脳の松果体という部位から分泌される脳内物質であり、別名「睡眠ホルモン」とも呼ばれ覚醒と睡眠のバランスを保つ働きを持っています。

生活リズムを整えるために、起床後はカーテンを開けて朝日を浴びることを推奨している理由は、朝日による光を浴びることで入眠を促すメラトニンの分泌が一旦停止し、脳が朝を認識し覚醒を促すからです。そして、日中の活動を終え覚醒から約13〜14時間後にメラトニンが再分泌され始めることで、自然と夜になると眠たくなる環境を作り出します。

つまり規則正しい生活習慣を作るためには、できるだけ朝の光を毎日同じ時間に浴びてメラトニンの分泌のリズムを一定にし、それにより睡眠のリズムも一定にすることが重要であると言えます。また夜に強い光を浴びると、朝と同様にメラトニンの分泌が抑えられ、覚醒を促す要因となりますので注意しましょう。

睡眠の欲求を高める

睡眠の質を高めることは、成長ホルモンの分泌にも大きく関係してきます。より良質な睡眠をとるためには日常の中で適度な運動を取り入れることも大切です。

運動といっても負荷の強い運動ではなく、1日15分程度のストレッチや筋肉トレーニングなどがおすすめです。なによりも一時的に負荷をかけて疲労感を得る運動より、重要なのは毎日できるだけ継続すること、可能な限り同じ時間帯に実施し習慣化させることです。そうすることにより身体のリズムとして組み込まれ、自然と眠りやすくなります。

昼寝も短い時間であればパフォーマンス能力の向上にも良いと言われていますが、昼寝の時間が夕方であったり、寝過ぎは夜間の睡眠の質を妨げてしまうリスクがあります。その結果、夜によく眠れず身体が休まらないため昼寝で補うといった負のサイクルにも陥りやすくなるので注意しましょう。

昼寝を取り入れる場合は極力15時頃までに行い、睡眠時間は15分〜30分程がおすすめです。夕方に眠気が出た場合は、可能であれば昼寝ではなく早めの就寝時間にするなど、対策を取る方がリズムも乱れにくくなります。睡眠と体調は非常に難しいバランスのため、ご自身のコンディションに応じて調整していくことが重要です。

睡眠環境を整える

良質な睡眠のためには、心身共にリラックスした状態を作り出すことも大切です。おすすめの環境調整のポイントについてご紹介します。

寝室のライトは暗闇にする

光は覚醒を促す要因となるため、睡眠時は光を感じない暗闇にすることが望ましいです。そのため、遮光性の高いカーテンを使うことをおすすめします。寝る前に寝室でゆっくり過ごす場合は、できるだけ暖色系の照明にしましょう。

また、寝る前に携帯やテレビを観ている人はできるだけ数時間前からは控えてください。特に、ブルーライトの光は照度が強いため覚醒しやすいと言われています。

テレビやラジオを付けっぱなしにしない

入眠前にリラックスする音楽を聞くことは効果的ですが、テレビやラジオを付けっぱなしにして眠ってしまうと音によって覚醒しやすくなり浅い眠りが続く要因となります。寝るときは騒音の可能性は除去し、音も消して静かな環境を作るようにしましょう。静かすぎると眠れないという方は、タイマー設定をして眠るようにしてください。

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まとめ

良質な睡眠を得ることで、ホルモン分泌を効率的に活性化させることができます。人によっては体質や生活習慣により短時間でも睡眠効果を十分に得ることができる人もいます。注目すべきはどれくらい睡眠時間を確保したかではなく、いかに良質な睡眠を得ることができたかという点が非常に重要です。

食事や運動も健康を維持するためには重要な要素ですが、しっかりと休息を得る習慣を身につけ明日への活力を蓄えることも大切です。規則正しい生活リズムを構築し、心身共に健康な状態を目指しましょう。

この記事の監修者

植田 祐己 美容皮膚科医

 
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