「エクソソーム」という言葉を目にしたり耳にしたことはありますか?美容に関心が強い方なら知っている方もいらっしゃるかも知れません。エクソソームは、最近医療や美容という側面から大変注目を集めている物質のひとつ。
今回は、なぜエクソソームが注目されているのか、どのような働きをするものなのかなど、エクソソームの基本となる情報を分かりやすく解説していきます。
エクソソームについて
そもそもエクソソームとはどのようなものなのでしょう。まずは、エクソソームの基本をおさえていきましょう。
エクソソームとはどんなもの?
細胞が放出する小さなカプセル状の物質のこと。その中には、たんぱく質や核酸などの機能分子が内包されています。このように細胞が放出する小胞のことを総称で「細胞外小胞」と言い、産生経路やサイズによっていくつかの種類に分けられます。
エクソソームは、そのうちのひとつであり、エンドソーム(細胞内に取り込まれた物質の輸送や代謝に関与する袋状のもの)に由来する約100nmのもののことを言います。エクソソームは、膜で覆われておりトゲのような突起がついています。この突起の働きにより、色々な細胞と結合できるという性質を持っています。
細胞外小胞には、エクソソーム以外に細胞膜に由来するマイクロサイズの小胞マイクロベシクル(Microvesicle)、死細胞の膜に由来するアポトーシス小体/小胞(Apoptotic body)もあります。
エクソソームの役割
ヒトの体は、37兆個の細胞からなっていると言われています。細胞同士はコミュニケーションを取っており、その1つのシステムがエクソソームによる情報伝達とされています。エクソソームは細胞から放出されると、血液にのって全身を循環します。エクソソームの中にはさまざまなタンパク質や核酸などの機能分子が含まれており、これらが離れたところにある別の細胞に到達することでその細胞に働きかけ、特定の生理作用を発揮するのです。
これらは細胞間コミュニケーションツールとして、さまざまな生命現象や病気に関係することが明らかになってきています。また、コミュニケーションツールとしての働き以外にも、細胞内の不要物質を排出する役割もあるとされています。
エクソソームの効果
ここからは、現時点でエクソソームがどのような効果を持ち、どのように使用されているのかを解説していきます。
美容・アンチエイジング
近年、医療分野でエクソソームのさまざまな疾患に対する応用に向けた研究が本格化してきましたが、未だ研究が不十分な側面があり、現時点では本格的な導入は見込めていない状況です。現時点で、エクソソームなどの細胞外小胞によるエクソソーム療法が最も簡単に受けられるのは、美容・アンチエイジングに関する自由診療を取り扱うクリニックになります。
エクソソームには炎症を抑えたり、組織の再生や修復を促す働きがあります。点滴や静脈注射によって血中にエクソソームを投与すれば、エクソソームは全身を巡って炎症している部位や修復が必要な部位に働きかけます。具体的には、疲労改善や若返りの効果があるとされています。
美容面でいうと、肌のコラーゲン生成を促し、細胞の再生を促すためシミや小じわの改善につながります。また抗炎症作用によって、ニキビや酒さなど、炎症性の皮膚疾患の改善も見込めます。最近では育毛促進の効果も期待されており、頭皮にエクソソームを使用するクリニックも増えてきました。
このように肌や頭皮に特化して作用させたい場合は、血中に直接点滴するのでなく、ダーマペンや水光注射など、微細な針で肌に穴をあける方法によって、効かせたい部位の皮膚にたくさんの微細な穴をあけて、直接肌の深部にエクソソームを送り込みます。
エクソソームの注意点
偽物のエクソソーム を見分けるには?
本来は、エクソソームという名称を使うためには「misev2018」という国際基準をクリアしていることが必要です。そのためには、「幹細胞の作り方」「幹細胞の数」「どんな製法で作ったか」「どんな餌を使用したか」などの項目の基準を満たすことが条件となります。
しかし、これらを満たすためには高額な検査機器が必要になるため、民間ではその基準を満たしているか否か検査することはかなり難しいと言われています。しかし、現在日本ではこれらを取り締まる法律がないことから、基準を満たしていない商品が多く世に出回っています。そして、高額で偽物が販売されていたり使用されてしまっているのが現状です。
本物のエクソソームを使用しているか否かを見分けるのはかなり難しいですが、一番簡単な方法が、「misev2018に則っているものか?」を尋ねること。場合によっては、資料の提示を求めてもいいかもしれません。医師に確認をとることに抵抗を感じる方も多くいるとは思いますが、高額な治療になるため無駄にならないよう勇気を持つことも大事なことですね。
細胞外小胞の研究
話は変わりますが、近年、エクソソームを含む細胞外小胞を使用した、疾患に対する治療用製剤に期待が高まっています。細胞外小胞を体内に投与することを想定した製剤は、大きく分けて2種類に分類されます。
天然型細胞外小胞の特徴と治療用製剤としての例
1つ目は、エクソソームなどの細胞外小胞そのものの治療効果を利用した製剤です。細胞外小胞は、細胞、組織、臓器に対してさまざまな効果をもたらすことが分かっています。それらの作用の中でも抗炎症作用、免疫抑制作用、組織修復作用などは疾患に対する治療薬として活用されることが期待されています。
オーストリアとドイツのグループは、人工内耳装置による副反応の炎症を抑える目的で、臍帯由来間葉系幹細胞の細胞外小胞を添加したところ、音声知覚の改善が認められたとしています。また、難聴を引き起こす音響性外傷に関しても、マウスを用いた実験ではありますが内耳に臍帯由来の細胞外小胞を添加することで難聴の改善が認められたことが明らかになっており、臍帯由来間葉系幹細胞の細胞外小胞の治療効果が実証されています。
また、細胞外小胞は免疫制御にも関わるとされており、ワクチンとして免疫療法もしくは予防的に使用する方法が提案されています。
改変型細胞外小胞の特徴と治療用製剤の例
もう1つは、細胞外小胞の供給源の細胞へ遺伝子導入したり、分泌後の細胞外小胞にペプチドや抗体を付加するなどして、特定の医薬品を細胞外小胞に内包させ、ドラッグデリバリ ーシステム(DDS)の担体として細胞外小胞を利用するものです。これは、細胞外小胞に遠隔臓器や特定の組織・細胞に機能分子を送達する能力があることを利用しています。
エクソソームなどのナノサイズの細胞外小胞は、ウイルス性の担体と比較して免疫原性、変異原性が低く、生体適合性を有しています。さらに、細胞外小胞に内包された核酸は、血中の核酸分解酵素などにも抵抗性があることが報告されています。そのため、低毒性や安定性に加えて特異性の高いデリバリーシステムの構築が期待されています。
まとめ
エクソソームは、法整備や研究が不十分であることから、医療分野での本格的な導入はまだ先の話になりそうです。美容やアンチエイジング目的での使用は普及してきていますが、治療を受ける際は、どのようなエクソソームを使用しているのか、十分注意してクリニックを選びましょう。
参照:
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