多くの方が目や耳にしたことがある「認知症」。もしかしたら、身近な方が認知症を患っている方もいるかも知れません。
認知症は、高齢になると罹患しやすくなる疾患のひとつだといわれています。また、認知症は生活習慣病のひとつだと言われており、ライフスタイルが発症に関係していると考えられています。
今回は、認知症を予防するためのライフスタイルの中でも「食事」にフォーカスした内容をお届けします。
認知症は食べ物で予防できるの?
現在、認知症の根本的な治療は確立されていません。そのため、まずは予防することが何より重要。そして、認知症発症要因に関する結果から、特に食習慣での予防が有効だと考えられています。
ここからは、認知症と食習慣の関係について見ていきましょう。
認知症とは?
認知症とは、「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」をいいます。
そして、認知症には色々な種類があり、以下の4種類が代表的です。
認知症の種類 | 原因 | 症状 |
アルツハイマー型 認知症 |
脳にたまった異常なたんぱく質により、神経細胞が破壊され、脳に萎縮が起こる | 昔のことは覚えているが、最近のことは忘れてしまう。軽度のもの忘れから徐々に進行。 |
血管性認知症 | 脳細胞に十分な血液が送られずに、脳細胞が死んでしまう。生活習慣病が主な原因。 | 脳血管障害が起こるたびに段階的に進行。障害を受けた部位によって症状が異なる。 |
レビー小体型認知症 | 脳内にたまったレビ-小体という特殊なたんぱく質により脳の神経細胞が破壊されおこる。 | 幻視や、 手足が震えたり筋肉が固くなるといっ た症状が現れる。歩幅が小刻みにな り、転びやすくなる。 |
前頭側頭型認知症 | 脳の前頭葉や側頭葉で、神経細胞が 減少して脳が萎縮する。 | 感情の抑制がきかなくなったり、 社会のルールを守れなくなる。 |
このように、一言で「認知症」と言っても色々な種類があり、原因や症状も様々です。
認知症と食べ物の関係
認知症の発症には、遺伝的要因、動脈硬化、炎症や感染など様々な要因が関係しており、ライフスタイルと大きく関係していると言われています。
「食事」は毎日繰り返される習慣の中でもとても重要で、抗酸化ビタミン、ビタミンD、多価不飽和脂肪酸などの栄養素が認知症の予防に有効であるとされています。
認知症を予防する食べ物
認知症の予防に有効な成分が、どのような食べ物に含まれているのかを解説いたします。
オメガ3を豊富に含む食べ物
脳には脂質が豊富に存在しています。そして、その中でも「多価不飽和脂肪酸」は、細胞膜の構成要素。多価不飽和脂肪酸は、神経の伝達や情動や神経変性疾患などの脳の機能にも影響していると言われています。つまり、脂肪酸は、脳の発達・機能維持に欠かせない物質ということになります。
多価不飽和脂肪酸は、n-3系とn-6系に分かれ、私たちに馴染みが強いのは別名「オメガ3系」といわれるn-3系。オメガ3系で代表的なものには、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)があり、青魚に豊富に含まれています。その他、えごま油、アマニ油、くるみなどからも摂ることができます。
これらの食材は、熱、光、空気により、酸化しやすい性質があるため、ちょっとした注意が必要。調理の際は、加熱処理をしないことと、期限を気にしてできるだけフレッシュな状態での使用がおすすめです。
炎症を取ってくれる食べ物
脳は、酸化ストレスが亢進しやすい臓器。実は「酸化ストレス」は、酸化障害を引き起こすため、認知機能の低下や認知症の病因の主要な因子であることが知られています。実際に、アルツハイマー症の患者は、抗酸化ビタミンの血漿中濃度の低下が見られます。
抗酸化作用をもつビタミンCとビタミンEなどは脳内老化制御という面で、とても大切な栄養素ということになります。抗酸化ビタミンは、緑黄色野菜、ベリー系のフルーツ、ナッツ類に含まれています。また、クルクミンという栄養素が豊富なターメリックも抗酸化作用が強い食材のひとつ。
これらの食材もできるだけ加熱処理をしないことがおすすめ。また、ビタミンC,Eは体外に排出されやすいため、少しずつコツコツ続けて摂るのが良いでしょう。
認知症のリスクを上げる食べ物
ここまで認知症の予防のための栄養素や食材を紹介してきましたが、反対に認知症のリスクを上げてしまう食べ物についても知っておきたいところ。
ここからは、できるだけ避けたい食べ物についてご紹介していきます。
白砂糖や小麦を使った甘い食べ物
白砂糖や精製された白い炭水化物は、「高GI食品」といわれます。GI値とは、グリセミック・インデックス(Glycemic Index)の略で、食後血糖値の上昇度を示す指数のこと。GI値が高い食材を食べると血糖値が急上昇し、GI値が低い食材を食べると血糖値は緩やかに上昇するという性質があります。
急激に血糖値が上昇すると、身体はその上昇した血糖値を下げるため「インスリン」というホルモンを分泌させます。インスリンの分泌が追いつかなくなると、血糖値が高いままの状態が続き、糖尿病になります。そして糖尿病になると、認知症の発症リスクが高くなることが分かっています。高GI食品を摂りすぎると、認知症の原因となる生活習慣病を引き起こしてしまう可能性があるのです。
高GI食品をよく摂る方は、主食を精製されたものだけでなく玄米や蕎麦など未精製のものを取り入れる工夫をしてみるのがおすすめです。また、間食についても、白砂糖をたっぷり使ったものではなく、フルーツや乾物などを取り入れましょう。
超加工食品と呼ばれる食べ物
米国糖尿病学会(ADA)によると、超加工食品とは「糖分や塩分、脂肪を多く含む加工済みの食品。硬化油、添加糖、香味料、乳化剤、保存料など添加物を加え、工業的な過程を経て作られる、常温で保存できたり、日持ちを良くしてある食品」のこと。
つまり、食品添加物がたっぷりと入り、高カロリー、高脂肪、高塩分。さらに、必要な栄養素であるビタミンやミネラル、食物繊維などはあまり含まれていません。
近年、超加工食品の摂取は、体だけでなく脳にも作用し、認知症のリスクも増加させることが分かってきました。
自分の体に取り入れる食べ物は、目で見て何が入っているか分かるものを選ぶことが大切です。原材料を見て、どんなものなのか想像できないカタカナが沢山並んでいる食品は控えるのがベター。
サラダ油などの加工油脂
加工油脂には、「トランス脂肪酸」という成分が含まれています。トランス脂肪酸とは、油脂の加工・精製でできるもので、マーガリンやショートニングなどに多く含まれています。生活習慣病になるリスクを上昇させ、認知機能の低下に関する報告も。
比較的安価で手軽にとることができる、ファストフードや菓子パン、スナック類に多く含まれており、安い揚げ物には注意が必要です。自分で調理をする際も、油は選びたいところです。
まとめ
意外な認知症と食べ物の関係がお分かりいただけたでしょうか。生活習慣病と同様に、認知症も、年齢を重ねると誰もがなるわけではありません。
毎日の習慣や身体を作る食べ物が、健康な身体作りに繋がります。認知症予防はもちろん、元気に生き生きと毎日を過ごすためにも、食事には気を配って過ごしていきたいですね。
参照:
片倉賢紀.多価不飽和脂肪酸と脳機能.Journal of Japanese Biochemical Society 92(5): 626-631 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920626
栗山月券.濱里予忠貝.第 419回研 究協議会研究発表要旨.ビタミン84巻.平成22年