「運動不足を解消したい」「余分な脂肪を燃焼したい」などの理由から運動をしようと思っても、どんな運動が自分の目的に合っているのかわからない方も多いのではないでしょうか?
運動には、それぞれ「強度」があり、それを理解したうえで実践すると無駄なく効果を最大限に引き出すことができます。
ダイエットのための運動や、筋肉を強化するための運動を知りたいという方は、ぜひ最後までご覧ください。
運動強度を知る前に理解すべきこと
まずはじめに、エネルギー消費と運動の関係性について理解しましょう。
エネルギー消費と運動の関係
人は、運動するときにエネルギーを消費します。これはスポーツだけでなく、日常生活における家事や育児、通勤通学などの際も同様です。
消費するエネルギー量の内訳としては、安静時の基礎代謝が約60%、食事誘発性熱産生(食事で体内に吸収された栄養素が分解されて消費されるエネルギー)が10%、家事などの身体活動と運動で消費されるエネルギーが30%となっています。
基礎代謝や食事誘発性熱産生は、人それぞれの体格と食事の量や質によって決まります。エネルギー消費量を多くしたい場合は、身体活動や運動量を増やすことはもちろんですが、基礎代謝の上がる生活習慣や食事を心がけることも意識すべきでしょう。
運動強度を示す4つの指標
運動には強度というものがあり、それを理解することでエネルギーの消費量について自覚しやすくなります。
METs(メッツ)
歩いたり走ったりの場合、運動の強さは「ゆっくり」だったり「速く」だったりと表現されます。
しかし、速さという尺度では、歩いている時と走っている時の運動の強さを比較するのが難しいです。例えば、急峻な山道を一歩一歩ゆっくり歩くときと、平坦な道をテンポよく走るのでは、どちらが強い運動なのでしょうか。
そこで、運動強度を表す尺度として、METs(メッツ)という指標が登場します。メッツとは、安静にしているときの消費エネルギー(酸素摂取量)を基準とした尺度です。
例えば、3メッツの運動強度とは「安静時に消費する量の3倍のエネルギーを消費する運動の強さ」です。一般の人でも参考にできるように、アメリカポーツ医学会では様々な運動のメッツが公表されています。
最大酸素摂取量
メッツは安静にしている時に消費するエネルギー(酸素消費量)を基準にしています。しかし、強い運動になると、エネルギーを消費できる能力は人によって大きな違いが出ます。
そこで、安静時ではなく、最もエネルギーを消費している運動時を基準にした尺度が必要になります。それが最大酸素摂取量(VO2max)を用いた方法です。
VO2maxとは、トレッドミルや自転車エルゴメータを全力で行っているときに得られる酸素摂取量の最大値です。この最大値に対して何%に相当する酸素を消費するかで、運動強度(%VO2max)を表します。医療現場で運動処方の際に行われている方法です。
予測最大心拍数
ところで、運動の際に酸素摂取量と同様に心拍数は比例して増加します。このことから、最大心拍数に対する一定の割合を目標心拍数とする方法も用いられます。
最大心拍数は、先ほどの運動負荷試験によって実測した最大心拍数を用いる場合と、年齢から計算した予測最大心拍数(“220一年齢”)を用いる方法があります。
運動の際の目標心拍数を決める簡単な方法は、カルボーネン法を利用することがあります。(下記参照)
【目標心拍数】={【予測最大心拍数(220ー年齢)】ー【安静時心拍数】}×【運動強度(%)】+【安静時心拍数】
運動強度では、50〜60%程度が中等度とされています。
例えば、40歳の人が運動強度が50%の運動をしようと思います。安静時心拍数が60/分であるとすると、目標心拍数は、{(220-年齢40)ー安静時心拍数60}×運動強度0.5+安静時心拍数60=120拍/分になります。
この場合、運動中の心拍数が120拍/分を維持できていれば、50%の強度の運動ができていることになります。逆に120拍/分より心拍数が少ない場合は、心拍数が目標値に到達するように運動の強度を上げる必要があるということです。
カルボーネン法を用いる場合の注意点
カルボーネン法を用いる場合の注意点としては、心拍数の予測値は実測値よりも高い数値になりやすいため、必要以上に強い運動強度になってしまうことがある点です。
また、不整脈などの心疾患や高血圧で心拍数を抑える薬(β遮断薬)を使用されている方は、運動強度の精度が下がるため注意が必要です。
自覚的運動強度(RPE)
心拍数を指標にした運動強度の設定は、特別な設備や測定が必要であることが多いです。そこで誰でも利用できる方法が、主観的運動強度です。
運動を「非常にきつい」「きつい」などと表現する、自覚的運動強度(ボルグ(Borg)スケール)です。1960年代にスウェーデンの心理学者ボルグ博士によって作成されました。
自分が運動する時、どれくらい努力を払っているのか主観的な感覚を数値で表現します。慣れてくればかなり正確に運動強度を評価できると言われています。
一般的には11〜13(楽である〜ややきつい)程度の運動強度設定が用いられることが多く、心拍数や最大酸素摂取量とも相関があるとされています。注意点としては、運動する人の性格やその日の気分に左右されることが多いことが挙げられます。
このように、これまでご紹介した運動強度には欠点もありますので、より正確に運動強度を決めるにはいろいろな指標を組み合わせて総合的に評価するのが望ましいでしょう。
疲労度を数値化した表
6〜20スケールでは6が最も低いレベルを表し、20が最も高いレベルを表します。何故、6から20の範囲かというと、ボルグの研究によるとアスリートが運動中に選択した数字に10をかけたものと、その時の実際の心拍数との間には高い相関関係があることが分かっているからです。
RPE | 自覚度 | 強度(%) | 心拍数 |
20 | もうダメ | 100 | 200 |
19 | 非常にキツい | 93 | |
18 | 86 | 180 | |
17 | かなりキツい | 79 | |
16 | 72 | 160 | |
15 | キツい | 64 | |
14 | 57 | 140 | |
13 | ややキツい | 50 | |
12 | 43 | 120 | |
11 | 楽に感じる | 36 | |
10 | 29 | 100 | |
9 | かなり楽に感じる | 21 | |
8 | 14 | 80 | |
7 | 非常に楽に感じる | 7 | |
6 | 安静時 | 0 | 60 |
運動強度別にみる運動方法
運動強度別の運動方法について知ることで、自分の目的に見合った運動を選べるようになります。
脂肪燃焼を促す中強度運動
「ダイエットをしたい」「余分な脂肪を燃焼させたい」場合には、心拍数が60~80%の運動強度を維持しながら「有酸素運動」を行うのが効果的です。
ジョギングなどで同じペースを保ちながら運動していても、実際には目安とされる心拍数より高過ぎたり低過ぎたり、無意識のうちにずれている場合があります。
心拍数が低過ぎると充分な運動の効果が期待できず、心拍数が高過ぎると疲れてしまい運動を続けられないため、有酸素運動を行う際には心拍数をこまめに確認しながら運動強度を維持することが望ましいでしょう。
有酸素運動を継続しているのになかなか効果が出ないときには、運動の強度を見直す必要があるかもしれません。
筋力アップする高強度運動
筋力をアップしたい方は、強度が高い運動を行う必要があります。強度が高い運動には、筋力トレーニングやダッシュなどの短時間で強い力を出す運動があり、これらは「無酸素運動」と呼ばれ、有酸素運動とは異なる効果が期待できます。
有酸素運動のように、無理のないペースである程度まとまった時間行う運動とは異なり、短時間で集中的にハードな運動を行います。無酸素運動を継続的に行うことで、普段使っていないことで落ちていく筋肉を維持し強くすることができるでしょう。
その際、疲労した筋肉をすぐに酷使してしまうと、傷ついた細胞を修復できなくなってしまうため注意しましょう。無酸素運動の後で、きちんと休息をとり筋肉を回復させると、トレーニング前よりも筋力増強されると言われており、これを「超回復」と呼びます。
筋肉の疲労が取れていないと感じたら、トレーニングは中止して筋肉を休ませることを優先してください。
HIIT
HIIT(ヒート)とは、「High-Intensity Interval Training(ハイインテンション・インターバル・トレーニング)」の略です。
「インターバルトレーニング」が何かと言うと、運動と休憩を交互に繰り返す運動のことを指します。最大限の力を使った高強度の運動と、休憩もしくは緩やかな低強度~中強度の運動を繰り返すトレーニング方法です。
酸素を使ったエネルギー消費(好気性呼吸)と、酸素を使わないエネルギー消費(嫌気性呼吸)の両方に働きかけるため、他のトレーニングに比べて代謝向上効果が高く、長時間の脂肪燃焼効果が期待できます。
さらに、呼吸器に負荷がかかることによって心肺機能と基礎代謝の向上も期待できます。カロリー消費や内臓脂肪の燃焼もしやすくなるため、ダイエット目的の方にも最適と言えるでしょう。
運動強度を日々の生活に換算しよう
生活の中で行っている身体動作と運動には、強度が同じものがあります。運動強度をある程度理解すれば、工夫次第で効果を高められるようになるでしょう。
料理とヨガのメッツは同等?
身体活動と運動種目のメッツの表を参考に、普段よく行っている動作は運動に換算できるかをチェックしてみてください。
メッツ | 身体活動 | 運動 |
2.3 | 料理、ガーデニング、動物の世話、ピアノの演奏 | ストレッチ、ヨガ、バランス運動 |
4.3 | やや速歩、苗木の植栽、農作業 | ゴルフ、卓球、パワーヨガ |
5.5 | シャベルで土や砂をすくう | バドミントン |
8.3 | 荷物を階段の上へ運ぶ | 水泳、ラグビー、ランニング(毎分134m) |
運動を日常生活に取り入れるメリット3選
運動をすることは、体力や筋肉がつくだけでなく他にもさまざまなメリットをもたらしてくれます。
ストレスの解消
適度な運動をすることで、現代人が溜めがちなストレスが解消され、メンタルヘルスの効果が期待できることがわかっています。
無理のない有酸素運動をすることで、脳内で「エンドルフィン」という脳内麻薬の一種が分泌され、幸福感をもたらしてくれます。このホルモンは、食事・運動・セックスなど、脳がご褒美と感じる活動の際に増加するものです。
また、体内で分泌される生理活性物質「内因性カンナビノイド」は、中枢神経や末梢神経に作用し、全身の細胞を調和させ、バランスを保ち、免疫や認知、記憶、感情、鎮痛など、さまざまな心身の働きをサポートしてくれます。
週に2〜3回程度の有酸素運動を行うだけでも、ストレス解消の効果が期待できます。無理のない範囲内から始めてみましょう。
ストレス解消にスイーツはNG?
スイーツを食べた後にも、幸福感が増して一時的にストレスが解消されたような気分になりますが、その持続時間は20分程度と言われています。逆に、食べてから約1時間ほど経過すると、食べる前よりもストレスや不安感が増す傾向にあります。
甘いものは美味しいですが、砂糖を過剰に摂ることにはデメリットもあります。それは、「インスリンの急上昇」です。
糖質が体内に入ると、インスリンのトラックがいっせいに出動し、糖質が分解されてできた「グルコース」を体中の細胞に運びます。すると血糖値が一気に上がり、その後急激に下がるという上下動によって感情が不安定になったり、さらに飢餓感を覚えてストレスに感じてしまうのです。
飲酒や暴飲暴食、ショッピングなどの浪費はその場しのぎの快楽でしかありません。長期的にストレス度の低い状態で過ごしたいなら、運動などの健全な方法から改善することを目指しましょう。
病気やケガの予防
運動をすることは、病気や怪我の予防につながるので積極的に取り入れるべきですが、その強度や頻度に気を付ける必要があります。
適切な運動量には、個人差があり、運動能力や体力、若者と高齢者、元気な方と病気の方、痩せ型か肥満型などの特徴によって適切な運動量は変わってきます。
アスリートではなく一般の方が健康を目的に運動する際は、息が切れるほどの激しい運動を頻繁に繰り返すのは逆効果になってしまいます。そのため、これから運動を始めるという段階の方は、無理なく取り組みやすい有酸素運動がおすすめです。
散歩やヨガなどの軽い会話をしながら笑顔でできる運動からスタートし、徐々に強度を上げていくようにしましょう。
激しい運動は体内に「活性酸素」を過剰に増やし老化を促してしまったり、筋肉に疲労が溜まってケガの原因を作りやすくしてしまいます。病気やケガの予防が目的の場合は、体に負担のない運動を行いましょう。
心の健康
運動により血流が促されると脳が活性化され、心に安らぎをもたらす「セロトニン」などの神経伝達物質が脳内に分泌されることが分かっています。 セロトニンは、幸福感や集中力を左右すると考えられている神経伝達物質で、脳内のセロトニン量が増えると、精神的な落ち着きが得られると言われています。
ヨガ、水泳、ウォーキングなどの有酸素運動で、それぞれ同じように気分の改善と向上が観察されています。
不安を抱えていたり、うつ症状が見られる方は、家にこもりがちになるより、仕事帰りや休日に有酸素運動や適度な身体活動を取り入れましょう。心と体はつながっているので、まずは外に出る、体を動かすことから始めると心が安定していくのを実感できます。
まとめ
運動強度を知ることにより、普段行っている身体活動も意外と運動になっていることに気づけたかと思います。
現代人は忙しいので、運動の時間が作れない方も多いでしょう。そのような方は、日常の行動を運動強度の高いものに変えるなど工夫することをおすすめします。
病気予防に運動は欠かせないので、今より少しでも運動の機会を増やしていくよう努めましょう。