「脂質異常症」という病気をご存知でしょうか。以前は、高脂血症という名前で呼ばれていた脂質の異常値を示す病気のことを現在はこのような名称で呼んでいます。
脂質異常症は日本人に多く、4人に1人が発症しており年々増加傾向にある身近な病気です。健康診断などで、コレステロールや中性脂肪が高いと指摘されたことがある方もいるのではないでしょうか。
生活習慣病とも非常に関係が深く、脂質の異常値は放っておくと少しずつ確実に進行し、場合によっては重篤な病気を引き起こすこともあります。今回は、脂質異常症が身体にもたらす影響や今からでも実践できる予防について詳しい内容をご紹介します。
脂質異常症について
脂質異常症というと、肥満傾向の方に多いイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、実際にはさまざまなタイプがあり、決して体格が原因となって起こる病気ではありません。
この項目では脂質異常症はどのような病気であり、なぜ健康に悪影響を及ぼすかについて焦点をあてて解説していきます。
脂質異常症とは
脂質異常症とは名前の通り、血液中に存在する脂質が基準値と比べ高い、または低い状態を示していることを言います。血液検査で脂質の量が分かるため、健康診断など採血を実施した際に指摘されることが多い病気です。
血液中に含まれる脂質のうち重要脂質には以下の2種類があり、それぞれ異なる役割を担っています。
①コレステロール
細胞膜を構成する成分で、身体に必要な脳や神経、ホルモンなどを作る原料となります。
②中性脂肪(トリグリセリド)
エネルギー貯蔵庫の役割があり、皮下脂肪として体温調整、衝撃などの外部からの刺激による影響から骨や臓器など重要器官を守る働きがあります。
これらの脂質がさまざまな原因によって代謝機能の低下を引き起こし、処理がうまく行われないことによって脂質の量に異常を来してしまう病気です。
脂質異常症の種類
脂質異常症にはいくつかの分類がありますが、大きくは以下の3つのタイプに分かれます。
①高LDLコレステロール血症
LDL(悪玉)コレステロールは動脈硬化と関係が深く、日本で最も増えているタイプであり、日本人の約20%が高コレステロール血症の疑いがあると言われています。
主に肝臓から全身へコレステロールを運ぶ働きをしています。そのため増え過ぎることによって脂質が血管に付着し蓄積され、血流を阻害します。
②低HDLコレステロール血症
HDL(善玉)コレステロールは、増え過ぎたコレステロールを回収する働きを持っています。少な過ぎることによって回収作業が追いつかず、悪玉コレステロールが蓄積し体内の脂質バランスが崩れやすくなります。
③高トリグリセライド(中性脂肪)血症
主に、アルコールを日常的に多く飲用している人や肥満傾向の方に多いタイプです。中性脂肪はLDL(悪玉)コレステロールと結びつきやすい性質を持っており、増殖を促進する一方でHDL(善玉)コレステロールを減らす働きも持っています。
このタイプの診断を受けた方は脂肪肝も合併しやすくなっているため、身体の変化や不調には十分に注意するようにしましょう。
脂質異常症の診断基準
脂質異常症の診断には、採血結果を用います。さきほどご紹介した脂質異常症の3種類の診断基準値について、項目別にご紹介します。
・高LDLコレステロール血症:140mg/dl以上
・低HDLコレステロール血症:40mg/dl未満
・高トリグリセライド血症:150mg/dl以上
この値から大幅に高い、または低い状態になっている場合が脂質異常症と診断されます。
脂質異常症の症状
基本的に、脂質異常症には自覚症状はありません。明らかな症状がないことにより脂質異常症の進行に気付きにくく、気付いた時には前回よりも状態が悪化していたということも多い病気です。
脂質がなぜ身体に悪影響を及ぼすのかというと、脂質が過剰に増え過ぎることで少しずつ血管内に脂肪が蓄積され、血管の内側にプラークというコブのようなものが発生します。プラークが長い間蓄積されていくと血管内が侵略され血流が悪くなり、詰まりの原因となります。そしてこの事象を、「動脈硬化」と言います。
このように脂質異常症は過剰な脂質によって動脈硬化を引き起こし、各臓器へと繋がる血管を詰まらせることによって脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な病気へと進行させるリスクがあります。
コレステロールが高値を示すことは、一般的に多くの方が引っかかりやすい項目であることから単に脂質が高いだけと軽視されがちですが、放っておくと本来なら予防できていた病気を結果的に引き起こすきっかけになります。早期から改善を目指すこと、予防的行動に努めることが非常に重要になってきます。
脂質異常症の原因
脂質異常症の原因は、原発性と続発性の2種類に分類されます。原発性とは主に遺伝子異常によるものであり、続発性は不規則な生活習慣や基礎疾患が原因となって脂質異常症を引き起こします。この2種類の観点から注意すべき原因について詳しくご紹介します。
生活習慣
脂質異常症を誘発する大きな原因は、不規則な生活習慣によって起こります。その中でも特に関係の深い3つの習慣について解説していきます。
①食事
3つの要因の中でも、最も脂質異常症と関係が深いのは食事習慣です。外食や飲酒の頻度が多い、お菓子が好きで甘いものを食べることが多い傾向にある方は、中性脂肪が蓄積する原因となりやすいため注意しましょう。
②運動
運動不足が続くと、食事で摂ったエネルギーは消費ができず体内に蓄積されます。その後、余ったエネルギーは中性脂肪に変化し脂質を増やす原因となります。
③ストレス
ストレスが蓄積されると交感神経が活発になり、直接的にLDL(悪玉)コレステロールを増加させるホルモン分泌が活性化され増加しやすくなります。その他にも基本的な生活習慣が乱れやすく暴飲暴食に繋がり食生活に変化が出ることがあります。
遺伝的な要因
遺伝的な要因には、家族性高コレステロール血症という病気があります。これは生まれつき血液に含まれるLDLコレステロールが異常に高くなってしまう病気です。
原因として、両親共に高LDLコレステロール血症を発症している方たちの子供に多いと言われています。難病指定されており、本来は中年世代に多い脂質異常症ですが、家族性の場合は幼少期から発症します。予後不良になりやすいため早めに治療や予防を行うことが重要です。
脂質異常症の予防法
脂質異常症を予防するために、おすすめの実践しやすい方法をご紹介します。
規則正しい食生活
食事を整えることは、脂質異常症の予防にとって非常に重要です。その中でも特に意識しておきたいポイントについて4つご紹介します。
①脂質の多い食品を控える
揚げ物や油分の多い食事、外食は脂質が豊富であり過剰摂取に繋がります。直接的に中性脂肪を増加させ腸内環境を悪化させる要因にもなるため、頻度をできるだけ減らすようにしましょう。
ただし、良質な脂質である肉、魚、ナッツ類、エキストラバージンオリーブオイルやMCTオイルなどは、食生活に取り入れてください。エネルギー源になったり細胞膜をつくるもとになる脂質を、低品質なものではなく高品質のものに変えるよう努めましょう。
②糖質や加工食品の摂り過ぎに注意する
糖質は主にエネルギー源となりますが、余った糖質は中性脂肪へと変化されてしまうため注意しましょう。
③飲酒や喫煙は控える
④食物繊維豊富な食品を摂取する
食物繊維にはLDLコレステロールを下げたり、コレステロールの吸収を抑制させる働きがあります。
適度な運動習慣
身体に負荷がかかり過ぎない適度な運動量はエネルギー代謝を促進させ、動脈硬化を予防するHDL(善玉)コレステロールの増加にも効果的であると言われています。
1日30分程度の有酸素運動(ウォーキングやジョギングなど)を可能であれば毎日または最低でも週に3回の頻度で行うようにしましょう。運動をしたいけれど時間に余裕がない場合は、ストレッチやラジオ体操なども効果的です。
まとまった時間に運動ができなくても数回にわけて集中して実施できれば問題ないため、ご自身のライフスタイルに合った運動習慣を身につけることが大切です。
まとめ
脂質異常症は、早期から予防的行動に努めることで発症リスクを大幅に低下させることができます。そして体内の脂質量をコントロールすることは将来的な健康維持に重要な役割を果たします。
今は症状がなくても、脂質が増え過ぎると確実に病気の発症リスクは高まります。採血結果や健康診断の結果は重要な指標であると捉え、偏りがちな食生活や運動習慣を見直す機会としてみてはいかがでしょうか。