近年、温暖化による影響は多岐に渡ります。その影響が生態系にも大きく影響を与えており、人への感染症にも繋がっていると考えられています。
今回は、最近話題になっている「ライム病」についてご紹介していきます。
ライム病とは
まずは、ライム病がどのような疾患なのかについて解説していきます。
どんな病気なの?
ライム病は、野生のマダニ科マダニ属のダニによって媒介される人獣共通の細菌による感染症です。菌を持った動物の血液を吸ったマダニに刺されることで感染し、数日から数週間で発症に至ります。症状には個人差があり、無症状の人から重症化すると死に至ることもあるとされています。
何からうつるの?
病原体は、スピロヘータ科のライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi sensu lato)です。野ネズミ、鹿、野鳥などがこのボレリアを保菌しており、これらの保菌動物の血を吸ったマダニに刺されることで感染します。人から人への感染はないとされています。
マダニの大きさは種類により異なりますが、未吸血状態の幼虫は約1mm、若虫は約2mm、成虫は3〜5mmです。そして、1回の吸血期間が、数日から長いものは10日間以上に及びます。
日本のどこで感染するの?
欧米では、現在でも年間数万人のライム病患者が発生しています。日本では、1986年に初めてライム病患者が確認されました。その後から現在に至るまで患者数は増加傾向にあり、その多くは北海道や海外での感染例です。
日本では、欧米に比べライム病患者の報告数は少ないというのが現状です。しかし、野ネズミやマダニの病原体の保有率は欧米並みであるため、潜在的にライム病が蔓延している可能性が高いと推測されています。
媒介物であるマダニは、食品や寝具、衣類などに存在するダニとは異なる種類です。マダニの生息場所は、山林や河原の土手などの草むらや、民家の裏山や裏庭、畑、あぜ道などにも生息しています。また、マダニのシーズンは春と秋の2度あります。春は成虫が多くなり、秋には若ダニや幼ダニが多くなります。
ライム病の初期症状
ここからはライム病の潜伏期間や症状などについて詳しく解説していきます。
潜伏期間
潜伏期間は、3〜32日間です。マダニに刺された部位から入った菌が移動し、リンパ管を介して広がることによって症状が出現します。
症状
ライム病には、「早期(限局期)」「早期(播種期)」「晩期」の3つの段階があります。また、播種期と晩期の間には通常無症状の期間があります。段階により現れる症状が異なるのが特徴です。
マダニの若虫は小さく、刺咬時に痛みを伴わないことが多いため、大半の人は気付きません。
早期(限局期)
ダニに刺されて3〜32日の間に、ダニに刺された部位や体幹に赤い斑または丘疹が出てきます。これは遊走性紅斑といい、ライム病の最初の徴候です。病変部は拡大し、最大で50cm程度まで大きくなることもあります。中心部に黒ずんだ紅斑ができることや、熱感を帯びて硬結することもあります。この遊走性紅斑は、無治療でも3〜4週間以内に退色します。
遊走性紅斑が退色すると、一時的に病変が現れることがあります。治療後に再度遊走性紅斑が出現した場合は、再発ではなく再感染であると考えられます。
早期(播種期)
早期(播種期)の症状は、初期病変が出て、数日から数週間後に細菌が全身に広がった段階で始まります。治療をしていない患者の半数近くで、小さな二次性紅斑が複数出現します。
また、倦怠感、疲労、悪寒、発熱、頭痛、項部硬直、筋肉痛、関節痛などインフルエンザのような症状が現れ、数週間続くことがあります。症状は時々現れ、変化するという特徴がありますが、倦怠感と疲労は長く続くことがあります。
リンパ球性髄膜炎または髄膜脳炎、脳神経炎、知覚または運動神経根障害などの神経学的異常が出現したり、重症度が変動する房室ブロックや稀に胸痛、駆出率低下、及び心拡大を伴う心筋心膜炎などの心筋異常が出現することもあります。
晩期
無治療のライム病では、最初の感染後から数ヶ月から数年で晩期に移行します。関節炎を発症することもあります。関節炎は、腫れや痛みが大関節に生じ、数年に渡って再発を繰り返します。
膝関節は腫れが顕著となり、熱感を帯びます。発作炎発作の前や同時に倦怠感、疲労、および微熱が発生します。その他の症状には、慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性脳脊髄炎などがあります。
また、中には抗菌治療が成功した後に疲労、頭痛、関節痛、筋肉痛、認知障害などの症状が現れる患者もおり、これを治療後ライム病症状群といいます。
診断
ライム病の診断は、流行地域などでの感染機会の有無、遊走性紅斑などの臨床症状、結成学的診断基準などから総合的に判断されます。通常は、この細菌に対する抗体を測定する血液検査を行います。しかし、抗体ができる前や、抗体ができる前に抗菌薬が投与された場合は、抗体が認められないこともあります。
多くの場合、感染から1ヶ月以上経過していれば抗体ができます。しかし、抗体の値だけでは判断が難しいこともあるため、上記の情報を総合的にみていく必要があります。また、ときに関節液や髄液を採取して検査を行うこともあります。
ライム病の予防方法
ライム病がどのような病気かが分かってきたと思いますが、一番大切なのは予防することです。最後は予防方法についてご紹介します。
肌の露出を最小限にする
一番大切なのは、マダニが生息する場所やシーズンをしっかりと知っておくことです。マダニが生息する山林や河原の土手などの草むら、民家の裏山や裏庭、畑、あぜ道などに行く際には、できるだけ肌の露出を控えましょう。
長袖・長ズボンを選ぶようにし、ズボンの裾を靴下やブーツの中に入れると良いでしょう。
虫除けスプレーを使用する
マダニにはジエルトルアミド(製品名:ディート)という成分が有効です。マダニが生息している可能性のある場所に行く際には、皮膚に塗っておきましょう。虫除けスプレーには対象年齢があるため、商品を使用する際には確認するようにしましょう。
その他、ペルメトリンという成分が含まれた防虫剤を衣服や靴などに吹きかけておくことも有効です。マダニが生息する可能性がある場所でキャンプやレジャーを楽しむ際には、テントやキャンプ用品などにも吹きかけておくと良いでしょう。
しかし、ペルメトリンは人に使用することができず、さらに洗濯後も効果が持続すると言われています。使用の際には、説明をしっかり読むようにしましょう。
帰宅したら着替える
マダニが生息している可能性のある場所に行った際には、帰宅したらすぐに着替えて室内に持ち込まないように気を付けることも大切です。その際、薄い色の衣服だと虫の存在に気付きやすいでしょう。また、ダニに刺されたり、ダニが付着していても痛みを伴わないことが多く気付きにくいため、特に毛の生えている場所などはシャワーや入浴の際に注意して確認することが大切です。
また、ペットに関しても同様にマダニが付着することがあります。マダニが生息している可能性がある場所に行った際には、ペットの体もしっかりとチェックするようにしましょう。長毛で確認が難しい場合は、トリマーなどに確認してもらうのも良いでしょう。
ダニに刺された時の対処法
ダニが付着しているのを見つけたら、慌てずに対処することが大切です。体に虫が付着していたら叩いたり潰したりしたくなると思いますが、マダニの場合は逆効果です。マダニの体の一部が体内に入ってしまったり、体の内容物が体内に広がってしまう可能性があります。
マダニを除去する際には、口器の部分も含めて体全体を残さずに取り除くことが重要です。ダニを取り除く際は、皮膚にできるだけ近いところでダニの頭か口を挟んで真っ直ぐに引き抜きましょう。体をつぶさないために体の部分を挟んだりしないよう注意が必要です。また、うまく除去できた場合でも感染の可能性があるため、早めに受診するのが良いでしょう。
まとめ
ダニが原因で起こるライム病。重症化すると体に色々な不調が起こる恐ろしい病気であるということが分かりましたね。また、その病気の原因がマダニという事実にも驚きを隠せません。
近年の環境問題である温暖化により、マダニにとって生息しやすい時期も長くなっています。楽しいレジャーが辛いものにならないよう、遊びに行く場所によって正しく対策を行いましょう。
参考:
山内健生.高田歩.日本本土に産するマダニ科普通種の成虫の図説.ホシザキグリーン財団研究報告.第18号.2015,p 287-305